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「てはアタロウくん、率直に訊こう。大絶後出版の言うように、君の作品の内容がしっかりしていて、編集部の受けがよくて、世に出したいと思われたなら、受賞しているんじゃないか?」
「だからそれは、受賞するには至らないということで……」
「受賞するに至らない作品を、大絶後出版は世に出したいのか? この出版不況の折に?」
「僕の作品は玄人好みなんですよ、きっと」
「いや、優先順位が違うんだよ。君にとって重要なポイントは、内容がいい、受けがいい、世に出したい、なんだろ? 大絶後出版にとって重要なのは、共同出版で世に出したいのところだ。それが一番で、ほかはまあそんなに問題ではない」
「内容が問題ではない……?」
「ちなみに、部数は結構強気な数を刷ろうと言われたんじゃないか?」
「あ、はい。ある程度の数がないと、売れるものも売れないと」
「その分費用はかかり、アタロウくんが払う金額が高くなるだろうね」
「そりゃそうです。でも、そうして作った本が売れなければ大絶後出版だって困るわけですから、頑張って営業してくれるでしょう」
「そこなんだよ。大絶後出版が説明しない重要事項とは、そこに通じるんだ」
「え?」
「アタロウくん、書店にせよ通販にせよ、出版社や作家は本を売って売上を作り、利益を得ているよね。本をたくさん刷れば、コストが上がる。その分売れなければ大赤字だ。だから出版社はいろんな宣伝をして、多く刷れば刷った本ほど、どうにか数を売ろうとする」
「そうですよね」
「つまり、作家・出版社・書店にとっての『お客』というのは読者だ。読者が本を買って、お金を出すから売上が上がる」
「そりゃそうです」
「この構造を、ほとんどの人間が当然のものだと思っている。そのために誤解してしまうんだ」
「さっきも言っていた、誤解ですね。なんなんですか、それは?」
「いいかい、重要事項とはこれだ。普通、出版社にとってのお客というのは本を買う読者だよね。しかし共同出版とか自費出版だと、大絶後出版にとってのお客は作者なんだ。お金を払うのは読者ではなくて、作者なんだよ」
「……え?」
「共同出版というだけあって、これはあくまで本を作って出版するサービスなんだ。その本が売れる必要はまったくない。大絶後出版にとっての商売は、本を作って、作者からお金をもらったところで一度完了している。ここを『本が売れないと大絶後出版だって困るはずだ』と思い込んでしまうと、誤解が生じる。あそこは共同出版の本が一冊も売れなくても全然困らない」
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