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「ま、待ってくださいよ。大絶後出版で共同出版した本は、有名書店にも置かれるっていう契約なんですよ。営業努力してくれてるじゃないですか」
「置かれはするさ。大絶後出版の場合は棚買いといってね、大手の書店の棚の一部を、同社がレンタルしている。そこに共同出版の本は置かれる。同じ大絶後出版の本でも、公募での受賞作品は、目立つ場所に展開されるんだろうね。一方棚買いされた棚に置かれた本は、手に取られなければ作品に魅力がないせいだとされ、しばらく経つと撤去されて、別の共同出版作品が置かれる」
「うっ。で、でも、作品が良ければ売れるのでは」
「良書だから売れるとは限らない。実際、君、大手書店で大絶後出版の棚とか、その作品とか、目に留まったことある? 書店員さんが懸命にディスプレイした本よりも?」
「で、でも、僕も同じ書店の棚に作品を出して、勝負してみたいです! 知名度はないけど、内容には自信があります!」
「君がその気なら、止める権利は誰にもない。でもその勝負は、君が不利であることは承知しておいた方がいいだろう」
「少しくらいの不利なんて!」
「少しかな。大絶後出版の場合、彼らの仕事は出版の時点でほぼ完了している。棚に本を置くのは、おまけみたいなものだ。おまけで置かれた、一冊も売れなくても出版社も書店も困らない本が、社運をかけて作者も出版社も書店も売ろうとしているほかの本と、勝負になるかな?」
「な、内容が、よければ……」
「いいかい、大絶後出版は、もう君から、一括にせよローンにせよお金をもらい終わっているんだぜ。そこに手をかければかけるほど、コストであり損になるんだ」
「え?」
「腕のあるイラストレータやデザイナに表紙を頼めば、その分費用がかかる。『本の表紙の仕事がしたいが腕は落ちる』という業者――ぽっと出の素人含めてだ――に任せれば、二束三文で済むね。紙の質も落とせるだけ落とせば、その分コストが減らせる。つまり、他はどうか知らないが、大絶後出版に限って言えば、君が共同出版する本は君の払った二百万という売り上げの上限がもう与えられていて、いい本にしようとすればするほど、同社にとっては利益を圧迫し、損する本なんだ」
「で、でも、売上の上限が決まっているとは限りません。本が売れれば大絶後出版だって儲かるんですから頑張ってくれるはずです」
「今言った条件で作られた本が、大ヒットすると思うの? それにそうなってもたださらに儲かるだけで、なんのリスクもない。そんな本が出現するといいね、とは大絶後出版も本音で思ってるんじゃないかな。彼らだって、別に本が売れると困るわけじゃない。ただ、売るための営業努力をすればするだけ、減らなくていい利益が減るというだけだ。それと……君の言う作品の質についても、失礼ながら厳しいだろう」
「ほ、本当に失礼です!」
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