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 パリンッ。  割れた鏡に、たくさんの困った顔の大人達が映っている。  その真ん中には、長い銀色の髪の、美しい男が立っていた。  一見、人間の青年に見えるが、長く尖った両耳と、長いふさふさの尻尾が、人でないことを物語っている。  一際困った顔をした男だが、すぐに優しい顔に戻って、責め立てる大人達から、私のことを庇ってくれている。 「これお前達、娘一人をそんなに責めるものではない。 しかし困ったことになった。  この鏡は俺の本体。  これがなくては神通力を失い、やがては俺自身の存在が失せてしまうだろう」 —————— それから、また場面がかわる。 「いいのか。俺とお前では、寿命が違う。共に年をとることも叶わない。  かやのは普通の人としての幸せは得られず、こんな寂しい(やしろ)の中で一生を終えるのだぞ」 「はい、かやのは一生、お戌様のお傍におります。  ここにはたくさんやることがあって、寂しいなんて思いませんから」 「神と人の夫婦など聞いたことがない。  子が成せるのかも分からない。そんな俺より、村の男と一緒になるほうが、人としての幸せを全うできるであろう。  悪いことは言わぬ、村へ帰りなさい、かやの」 「いいえ、かやのはおいぬ様を愛しております! おいぬ様が居ないと、幸せになんかなれませぬ」 「はあ…分かった。 もう、かやのの好きにするといい。ただし俺は、一生かやのを離さぬぞ」 「はい、お戌様」 「ならばかやの、もう一度」 「お戌様、愛しております……ああ…」
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