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頭上から男の声がして、誰かが私に覆い被さっているのが分かった。
「だ、誰?」
「静かに。頭を護って、じっとしておれ」
誰も居ないはずの廃村に、突然知らない男が現れたのだから、もっと警戒すへきところだが、今は緊急事態だ。
私は首だけで頷くと、じっと頭を押さえ、揺れがおさまるのを待った。
揺れがおさまると、男は私の上から起き上がり、それから四つ這いになっていた私の脇を持って、後ろ向きに立ち上がらせた。
とんとんと軽く背中を掃うと、頭に響いてくるような柔らかな声色で、私に告げる。
「さあ、もう大丈夫」
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには私の頭一つ半くらいはありそうな、背の高い男が立っていた。
「あ…あ…」
天変地異の恐怖やらで、その時の私は、正常な判断ができていなかったのかも知れない。
ただ、その神秘的な姿に、私はお礼を言うのも泣くことも忘れ、半ば呆然として呟いていた。
「もしかして……お戌…さま?」
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