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その姿は、人の姿でありながら、あまりにも人からかけ離れていた。
銀色の美しい髪を腰まで垂らした、平安武士のような直垂姿。
碧翠色の瞳は、深く澄んだ渓流の源泉を思わせる。
そして何より、銀髪から飛び出た長く尖ったふたつの耳と、ふさふさの尻尾は、明らかに人ならざるものだ。
びっくりするほど、あの日の夢で見た通りの姿だ。
はっとして、上を見た。
半壊した屋根からは、さっき、抱えるほどの太い梁が倒れてきた筈。
だが、それは今や、祭壇の上に折れた姿で横たわっている。
その隙間に、無惨にひび割れた御鏡が。
私は思わず尋ねていた。
「あの大丈夫…ですか」
震えながら尋ねた私に、目尻を下げ、彼は蕩けるような笑顔を見せた。
「ああ、良かった。怪我はないようだな。
会いたかったぞ……かやの」
そうして、大きな体躯を私の目線まで身体を屈ませると、呆けている私を抱き締め、柔らかに唇を重ねた。
ん?んんん?!
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