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はっちゃけラン・ア・ウェイ。
「ここまで辱めを受けたらキャラもへったくれもありはしない。私は先輩にして文芸部部長だ。一番創作の才能が無い、ただ先に生まれてちょっと早く入部しただけのキャラづくりに必死だったお姉さんだ。だけどもういい。もう知ったこっちゃない。文芸部室から飛び出せば、お前らとはただの先輩後輩、普通のお友達だ!」
びしぃっ、と人差し指を突き付けられた。えっと、と流石に戸惑いを覚える。
「つまり、文芸部員として一緒にいると劣等感などに苛まれるけど、そうじゃなくて友達として接するのであれば気おくれしなくて済むでは無いか、と。先輩の主張はこういうことでしょうか」
矢加部が解説してくれた。成程、と俺は手を打つ。
「そうだ。そして作っていたクールな部長の顔と、キレて吹っ切って突き抜けた自分と、素の私が混ざり合ってよくわかんないキャラになっちゃった。このまま買い物に飛び出すぞ! 黒くない服が買いたい! 矢加部! 付き合え!」
「は、はい」
「武本も一緒に来い! 私は焼肉が食べたい気分だ。イタリアンじゃあ力が出ない。タン塩を食べに行くぞ! 勿論、会計は割り勘だ! 二駅隣に二時間食べ飲み放題で四千五百円の焼き肉屋がある! お前ら、知っていたか?」
矢加部と声を揃えて、知りませぇん、と返事をする。
「若いのに勿体無い。ほら、とっとと行くぞ! こんな部室、出て行ってやる!」
「あれ、じゃあ退部されるのですか?」
「しない。しばらくは来ないだけ。だって作家さんになる夢は持っているから。なに、物を書くなんて何処でも出来る。教室でも、学食でも、図書館でも。スマホがあればトイレでもな!」
「個室を占領しないで下さい」
「そしていつか君らに胸を張って自慢出来るような結果を得たら! その時私はこの部室へ帰って来よう。それまで君らの面倒は見ない。もう十分育ったしね。でも私は友達がいないから、君達二人と遊びたい。だから部室の外で付き合え」
この三十分で随分自由になったな。行くぞ、と鞄を持った先輩が欠片の名残惜しさも見せずに部室を出て行く。
「忘れ物とか、確認しなくていいんですか。しばらく来ないつもりなんでしょ」
「気付いたら君達に頼んで持って来て貰う」
「灘田先輩、急にいい性格になりましたね」
「自分でもそう思う。君らに悪い影響を受けて、それが爆発したのかも知れん」
「あ、コラ! こっちのせいにしないで下さい」
「うるさい。君らが今の私を生み出したんだ。こっちがどれほどの焦燥とプレッシャーを感じていたか、わかるわけもないよな!」
「わかりませんよ! でもありがとうございました!」
「どういたしまして!」
騒ぎながら部室棟を後にする。そして、遠からず先輩とまた部室で会えると確信をした。だってこんなに面白い人なのだもの。育成と重責という全ての重荷から解放された今、作品もはっちゃけるに違いない。重荷だった奴にそう評されたら貴女はまた怒り出すでしょうけど、クールぶっているよりもよっぽど素敵な素顔だと思いますよ。先輩。
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