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第2話 放課後は別の顔
「大悟ぉ、カラオケ行こうぜ」
放課後の教室でクラスメイトのヨシオが誘いに来た。
「女子が一人足りなくてさ」
「女子って……ボク、男なんだけど」
「聞いてくれよ、こっちは男子四人揃えたのにさ、肝心の女子が今になって一人ドタキャンなんてあり得ないよな、マジで」
「ねえヨシオ、ボクの話聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる。だからさ、また頼むよ。加奈もメイクならまかせてって張り切ってるし」
「そんなぁ、顔だけメイクしたって……」
「大丈夫、大丈夫、コスも加奈が用意するって言ってるし」
彼の名は小林大悟、大学受験を控えた高校三年生だ。クラスの、いやおそらく学年の男子で最も小柄な彼はマッシュルームショートの髪型と中性的な童顔、それに変声期を過ぎたとは思えないボーイソプラノな声も相まって男子のみならず女子からも妙な人気があるのだった。
「それじゃ大悟チン、これに着替えてきて」
カラオケボックスに到着するとヨシオの彼女である加奈が期待に目を輝かせながら紙袋を渡す。大悟はそれを受け取るとそっと中を覗いてみた。
「こ、これって、メイド服? 加奈、こんなもん、どこから持ってきたんだよ」
困惑する大悟を前にして彼女はドヤ顔で答えた。
「へっへ――、演劇部からちょっとね」
「おっ、さすが。やっぱ加奈は顔が広いわ」
「ヨシオほどじゃないけどね」
これからメイド服を着せられる大悟のことなどさておいて、やたらと盛り上がるヨシオと加奈の二人だった。
ひとりトイレに籠って用意されたコスチュームに着替えた大悟は洗面台の鏡を見ながら襟元とリボンタイを整える。顔こそすっぴんのままだったが、しかしその姿は妙に板についていた。
「やっぱカワイイ!」
キャッキャ言いながら加奈はあっという間に大悟にメイクを施した。
「おお、ウィッグがあればバッチリなんだけど、でも大悟の髪は柔らかいしマッシュルームだしこれはこれでイイんじゃね?」
黙っていればまさに女子、そんな大悟に見とれるヨシオはしっかりと加奈に釘を刺されていたが、彼のみならずフロントに立つ受付の青年や入店して来たばかりの他の客からも熱い視線を浴びる大悟だった。
するとそのとき、大悟のスマホが着信のバイブレーションに震えた。何事かとこちらを気にする二人に「待て」のジェスチャーをするとすぐに電話に出る。耳元からは有無を言わせぬ貫禄がある女性の声が聞こえてきた。
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