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「ミエルちゃん、もう学校は終わってる頃よね。急で申し訳ないけれどすぐに事務所に来て頂戴」
大悟はヨシオと加奈の様子を伺う。そしてスマホを指さしてから拝むような仕草をしながら電話の向こうにいる相手に応えた。
「わかりました。すぐに行きます」
これまでもこうした突然のバイトでドタキャンの常習犯でもある大悟を前にして二人はすっかりあきらめ顔になっていた。
スマホを切った大悟は二人に駆け寄ると何度も頭を下げる。
「ごめん、急に仕事が入ったんだ」
「なんだよ、またかよ。てか、オマエってどんなバイトやってんだよ。いつも呼び出しが急だしさ、まさかヤバい仕事じゃねぇだろうな」
「そ、それは……ほら、ボクはひとり暮らしだし、だから稼がなきゃなんだよ」
「ったくしょうがねぇなぁ、大悟、これは貸しひとつだからな」
「わ、わかったよ、そのうち返すよ。それで加奈、このメイド服なんだけど」
「そんなの明日でいいし。その代わりそのままバイトに行ってぇ、写真撮ってアップするし。それで貸しはチャラってことで、ね、いいっしょ、ヨシオ」
「お――、さっすが加奈、イイネ、だぜ。てか、大悟のメイド姿なんて即拡散だろ」
「そ、それって罰ゲームみたいじゃないか、拡散なんて大ピンチだよ」
「まあまあ、とにかく写真、楽しみにしてるぜ」
「了解したよ。それじゃ二人とも、ほんとにごめん」
そう言って大悟はメイド姿のまま荷物を抱えて店を出るとすぐにタクシーを捕まえてその場を後にした。
小林大悟は高校生、しかし放課後には別の顔も持っていた。一つは英国風パブでのメイド、ビクトリア朝の衣裳でシャルロットと名乗っている。もう一つはキャバクラ風味のコスプレパブ、そこではミエルという源氏名のボクッ娘キャラとなってヘルプを務めていた。どちらも「ママ」と称する彼の叔母を名乗る女性が経営する店、彼はそうして得た収入を将来の学費や生活費の足しにしていたのだった。
そんな彼だが実はもうひとつ、三つ目の顔があった。それは件の女性が経営するコンサルタント会社の調査員だった。だがそこはコンサルタントとは名ばかりの、実態は各種調査や情報収集、場合によっては潜入捜査も辞さないといういわゆる事件屋であった。
そこで大悟は変装と潜入を得意とする調査員を務めていた。もちろんその変装のほとんどは彼の見た目を生かしての女装、そう、彼は本職の男の娘でもあったのだ。
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