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「アズミちゃーん! ご新規一名様ー!」
「あいなー! らっしゃっせー!」
広いフロアに所狭しと安い木製の円卓が並び、叫ばなければ給仕同士の疎通もままならないほどに客が詰め込まれた薄汚い酒場のひとつ。お上品でお堅いと評判の帝国とはいえ、有象無象の蔓延る下流街ともなればこんなものだ。
そして帝国立大魔導学院の一般入試を合格した才媛、アズミ・アーセナルであろうともここでは一介の給仕に過ぎない。
「こっちのお席どうぞー! って、まぁた大司教かーい! なんやねん金持ちのくせにヌルいエール呑みん来よってからに!」
薄汚れてこそいるものの教会の上級法衣を胸元露わに着込んだ、いかにもガラの悪い神官の男。整髪料ではない、樹木のヤニかなにかで無理矢理オールバックに撫でつけた酷い癖のある金髪。釣り気味の太い眉と愉快げに歪んだ口元は信じる者には安心感を、疑う者には不安感を与える独特のオーラを放っている。
しかしこの男こそが女神教会四派閥のひとつ聖女派の最高位である大司教、人呼んで“空席の大司教”ラムザだった。アズミとはわけあって既知だったが、親しいかと言われるとそうでもない。
「そう邪険にするな、俺は客だぞ苦学生」
「アタシが女神さんと大司教さんに感謝すんのはアタシの財布があったまったときだけやで」
不敬なアズミの言い草にラムザは気を悪くした様子もなく不遜に返す。
「ならばお前が仕事を上がるまで俺の酒とつまみを適当に供するがいい。聖女派大司教の名に懸けて相応に報いてやるぞ」
「ゆうたな大司教。あとで泣いても知らんで」
かくして帝国でも稀な酒肴に強い酒を散々叩き込んだアズミは、しかして仕事上がりにそのまま教会へと連れ去られたのだった。
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