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十四人目の主
私は、不老不死のごく普通のメイドです。
西暦2630年、私は新たな主人に出会いました。
ご主人様は少しだけ裕福な家庭のお坊ちゃんで、お人柄もよく、勉強も人一倍できる優等生でした。
しかも他者を見下すこともなく、かつ強い意思をお持ちであられました。
ご主人様は当初、一応大学に入りたいというぼんやりとした希望を持っておられました。
しかし、ある時太陽系の外に宇宙ステーションを建設する企画について取材したドキュメンタリー番組を観て、宇宙飛行士になりたいと仰いました。
そしてそれ以降、今まで以上に勉学に励まれるようになられました。
もちろん大学も、入学どころか卒業の時も首席で卒業されました。
そして2642年、ご主人様は民間の宇宙開発企業の社員となり、その3年後には日本やアメリカの宇宙飛行士と共に月の開拓事業に参加されました。
さらに2651年には、幼い頃からの悲願でもあった太陽系外の宇宙ステーションに滞在される事が決定しました。
私はとても嬉しかったのですが、同時に滞在する10年間は帰ってこられないとも伝えられました。
「おめでとうございます」
「ありがとう。
本当はお前も連れていきたかったんだけどな…」
「いえいえ」
「隠すことはないよ。お前も宇宙に行きたいんだろ?」
「…本当は、そう思います」
「だよな。でも心配するな。
今回の滞在の目的は、完成した宇宙ステーションで人間が普通に生活できるかを確かめるものだ。
だから、上手くいけば民間人も行けるようになる。
そうなれば、お前もこれる」
「それはいいですね…」
「だろ?必ずいい結果を持って帰ってくるからな、それまで待っててくれよ!」
そうして、ご主人様は宇宙へ旅立って行かれました。
私は、ご主人様のお帰りを待ち続けました。
しかし、それはとても、とても長い年月でした。
それまで、不老不死である私にとってはほんの一瞬でしかなかった10年という年月。
それが、こんなにも長く感じたのはいつぶりだったでしょうか…
2661年、ご主人様はご帰還なされました。
その結果、宇宙ステーションでの実験滞在は成功し、これからはどんどん民間の人も行けるようになるとの事でした。
ご主人様のお話を聞くうち、私は自然と涙を流していました。
かけがえのない人が帰ってきてくれた喜びと、1000年もの間見上げる事しか出来なかった場所に行く事が出来るという感動で、押し潰されそうでした。
そして翌年、私はご主人様と共に宇宙へ飛び立ちました。
宇宙船の窓から生で見た地球は、どんな映像、どんな写真で見るより、綺麗で神秘的でした。
宇宙ステーションでの生活はとても便利で楽でした。一方、一つだけ地球にいた時と殆ど変わらない事がありました。
それは、
私がご主人様にお仕えし、主人と従者のよい関係を築けたという事。
そして、2925年にご主人様が亡くなるまで、それが続いたという事です。
私の十四人目の主は宇宙船の事故で亡くなりました。
私は無限に広がる黒い星海を眺め、生き続けました。
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