十二人目の主

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十二人目の主

私は、不老不死のごく普通のメイドです。 西暦2190年、私は次のご主人様に出会いました。 ご主人様は優れた医師の家計に生まれた方で、幼い時からご両親にお勉強を半ば強制的にやらされていました。 時には、勉強のためにお友達とのお付き合いやご自身のなさりたい事などを無理やり制限されることもありました。 ご主人様は顔には出されないだけで、とてもお辛い思いをされていたかと思います。 しかしその結果として、ご主人様はあっさりと医科大学を卒業され、医師免許を取得なされました。 ご主人様ご自身も、これからは医療の時代だ、私の手で可能な限り多くの人々を救いたいと申しておられました。 かつてのご両親のやりすぎなまでの徹底した教育方針は、間違ってはいなかったのでしょう。 実際、医師としてのご主人様は素晴らしい手腕を発揮され、数年もしないうちに名医と呼ばれるまでになっておられました。 ところが、そんなご主人様を見ているうち、私はその言動に何かおかしな違和感を感じるようになりました。 最初は違和感を感じるだけ、という程度だったのですが、次第にどの患者に対しても同じ薬を処方したり、お気に召さない患者をぞんざいに扱ったりと、お仕事に対する態度が劣悪なものになっていったのです。 しかし、ご主人様のお見せになる爽やかな笑顔と明るい声だけは、決して変わることはありませんでした。 2242年、ご主人様はこれまでの不正が全てバレて捕まってしまいました。 2270年には出所されましたが、医師免許を剥奪され、二度と医師として働く事は出来なくなりました。 ご主人様はまた新たにお勉強を始められました。今度は科学者になるおつもりだそうです。 「なぜ、科学者を目指されるのですか?」 「理由を上げるとすれば、2つあるな」 「よろしければ、お尋ねしても?」 「ああ勿論だ。 一つ。やはり私には学者しか生きる道はない。 体を動かす事は苦手だし、他の資格やら何やらを取るつもりもない。 医者ではなくとも、科学者になれればいいさ」 「そうですか。 では、二つ目の理由というのは…」 「二つ。 私は、本当は幼い頃から科学者になりたかったんだ。 親父たちのせいで、医者にならざるを得なかっただけで、本当は科学者として世に出たかったんだ。 もちろん諦めてはなかった、いつかなりたいと思ってはいたんだが、気づけば70年も経ってしまった。だが、今は300年生きられる時代だ。 まだまだ挽回の余地はあるさ!」 ご主人様は無事に博士号を取得し、科学者になられました。 以降は様々な道具や技術を発明·発表され、名声を確かなものにされていきました。 2457年、ご主人様は270年ぶりにタイムマシンの開発に着手した学者となられました。 そしてその完成と共に、私の目の前で、朗らかに喜びの声を上げながら去っていかれました。 私の十二人目の主人は永い時間旅行に旅立たれました。 私は時空を飛び出ず、今この時を生きる事にしました。
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