歪な天使

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ある時、家に帰ったら、何故かアスカと俺の母親が裸で抱き合ってたんだ。 俺に気づいた瞬間、母親は真っ青になって飛び起きたけど、アスカは普通に「おかえり」って言いてきた。 アスカは「お前の母ちゃんに背中のタトゥー見せてあげてたんだ」「母ちゃん、泣いて喜んでるよ」「お前が立派な大人になったからだな」って、顔色も変えず平然と言うんだ。 俺、その場から逃げ出したよ。 あいつの目がめちゃくちゃ怖くて、体の震えが止まらなかった。 あいつ、自分がやばいことしてるのが本気でわからない人間なんだ。 その時やっと気づいたけど、アスカは笑っているようで、目の奥が笑ったことは一度もなかった。 結局、それがアスカに会った最後の日になった。 あの後家にも帰れなくなって、店にもアスカの姿が見えなくなった。 さすがに向こうも気まずくなったのかと思って少し安心してた頃、急に店に警察が来たんだ。 「この遺体のタトゥーに見覚えあるか」って、師匠と俺が写真を見せられた。 写真には背中しか写ってなくて、首から上は判別できないような状態だったらしい。 その背中の歪んだ天使は、明らかに俺が彫ったものだった。 あとで警察に聞いた話だけど、アスカが町を歩いてたら不良グループにからまれて、寄ってたかって暴行されたらしい。 あいつ後ろ姿だけ見たら子供みたいだから標的にされやすいんだろうな。 何しても痛がらないから余計にエスカレートして、服脱がされて、背中のタトゥーをバカにされた時も、「こいつがいるから大丈夫なんだ」って言ってたって。 そう、それがあの日。 俺が家を飛び出した日だ。 アスカは俺を探しに行ってた途中だったらしい。 その途中で、変な奴らに目つけられたんだ。 俺が聞いてたあいつの地元も年齢も実は全部嘘で、名前だけが本物だった。 神崎飛鳥(アスカ)。 飛鳥は親の虐待が原因で中学の頃から家出してたらしい。 ネットカフェに住んだり、全然知らないやつの家にいたり、ホームレスだった時もあったみたいだけど。 やばいところから金借りたり、結構危ない生活してたらしい。 それが、唯一天使のタトゥーを完成させた男の話だ。 たまに、背中の天使が飛鳥を連れてっちまったのかなって、思う時がある。
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