婚約破棄なんて私は決められないの

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婚約破棄なんて私は決められないの

 その日、プラントン学園では卒業パーティが行われていた、そこで黒髪に紫の目をしたベルフォード・ブラン・プラントンが、桃色の髪に同じ瞳の色をしたチェリー・ゴーディー・ライヒ男爵令嬢を抱きしめていた。そして真っ赤な髪に深紅の瞳のアデア公爵令嬢に、言いだしたことがこれであった。 「アデア・クリフィード・ブリュフォール!! 貴様の僕の愛するチェリーに対する散々な嫌がらせ。今日こそ僕はお前よりチェリーを選ぶ!? 今更泣きついても無駄だぞ!!」 「ああっ、べルフォード様」 「チェリー・ゴーディー・ライヒ男爵令嬢を側妃に迎えられるのですね、分かりました」 「え?」 「え?」 「ですからチェリー・ゴーディー・ライヒ男爵令嬢を側妃に迎えられるのですね、分かりました」  アデア公爵令嬢は特に驚いた表情などは見せず、あっさりとチェリー男爵令嬢の存在を側妃として認めた。王太子であるベルフォードは出鼻をくじかれたが、更にアデア公爵令嬢にこう言い放った。 「チェリーを側妃に何か迎えるか!? 正妃として迎えるに決まっている、そしてお前は追放だ!!」 「きゃー、ベルフォード様。素敵!!」 「一体何を馬鹿なことをおっしゃってますの、王室が我が公爵家にいくら借金をしているかご存じないのですか。それにもちろん婚約は正当な手続きを経たもので、そう勝手に簡単に変えられるものではないのです」 「え?」 「え?」 「私が王太子の正妃となることは決まっているので、チェリー男爵令嬢が側妃になるのは当たり前なのです」  ベルフォードは王室がいくら公爵家に借金しているのかなど知らなかった、考えたことすら全くなかった。もしかしてヤバイくらいの借金をしているのだろうか、そう考えると後ろ盾もないチェリー男爵令嬢を、正妃になんてとても言いだせなかった。 「………………くっ!?」 「でもでもチェリーに嫌がらせをしたのは本当だもん!! さぁ、謝って!!」 「愚か者!!」  謝罪を要求するチェリー男爵令嬢に、そんなことも分からないのかとアデア公爵令嬢は言い放った。その叱責にチェリー男爵令嬢は思わず疑問の言葉しか言えなかった、そうしてアデア公爵令嬢はため息を一つついてこう言い捨てた。 「え?」 「え?」 「後宮の事情など国政を司る王や王太子にとっては些末なこと、それをわざわざ水面下から出すとは愚の骨頂」  要するに国政を司る王や王太子にとって、後宮での女性の争いごとなど見せるべきではなく、たとえ何かあっても何事もなかったかのようにするのが当然だ。そうアデア公爵令嬢は言っているのだった、それが後宮にはいるべき女性では当たり前なのだとチェリー男爵令嬢を叱ったのだ。 「でも私も少し考えましたの、王太子に真にふさわしいのはどなたかと」  こうアデア公爵令嬢が言いだした時、ベルフォードは自分の立場の危うさに気が付いた。たった今、自分はブリュフォール公爵家に、いくら借金しているかも分からないと言ったも同然だった。そんな者、王太子としてはふさわしくない、父上には他にいくらでも優秀な王子がいるからだ。ベルフォードは情に訴えかける作戦に出た。 「あっ、アデア公爵令嬢。そなたをないがしろにして澄まなかった、心底反省するゆえにどうかこの愚かな僕を許して欲しい」 「ベルフォード様!? チェリーのことは?」 「それは私にはできかねます、私は王太子の正妃として育てられてきました。ゆえにどなたが王太子であるかは陛下が決めることです。そしてその無礼なチェリー男爵令嬢に至っては後宮にすら入れるかどうかも定かではないですわ」 「え?」 「え?」 「あらっ、国王陛下ご夫妻のお見えでございます」  アデア公爵令嬢の言葉に見物をしていた他の貴族たちも姿勢を正した、そうして国王陛下が王妃がパーティ会場に入ってきた。ベルフォード王太子が力なく国王陛下に声をかけた、チェリー男爵令嬢は何もわかっていないのか、恐れ多くも発言をしてしまった。アデア公爵令嬢は黙って国王陛下ご夫妻の傍に控えていた。 「父上、今日のことは間違いなのです、僕はこれから王太子に相応しく勉学に励みます!!」 「国王陛下、ベルフォード様の正妻となります。チェリー・ゴーディー・ライヒでございます」 「………………」  そんな三人に向かって国王陛下はあっという間に処分を決めてしまわれた、三人は以下のような処分となった。 「ベルフォード、国政を学ばず遊び歩いているお前は廃嫡とする。後顧の憂いを断つため斬首刑に処す。チェリー男爵令嬢も同罪とみなし同じ刑に処す。アデア公爵令嬢には馬鹿な息子が迷惑をかけた謝罪を、また王太子が決定しだい婚約者として国を支えて貰いたい、以上だ」  国王陛下が言い渡した決定に三者三様、それぞれに相応しい反応をした。ベルフォードは信じられないという顔で、チェリーは国王陛下の言っていることの意味が分からず、アデア公爵令嬢は取り乱さず微笑みさえ浮かべて返事をした。 「え?」 「え?」 「国王陛下からのお言葉、拝命いたしました」  その後、プラントン王国では新しい王太子を決められ、アデア公爵令嬢は国王陛下のご命令どおりその王太子と結ばれ、何人もの跡継ぎに恵まれたという話だった。ベルフォードとチェリーに至っては言うまでもなく、速やかに国王陛下のご命令どおりの刑に処された。
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