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アスルとローサは鉱山へ向かう2日前、依頼者の代理人に面会していた。
代理人の話ではとある日に鉱山で極秘の取引が行われる事が判明していると言う、取引には以前よりマークしてきたモーリスと言う男が現れる。
モーリスは鉱山での取引内容の管理や帳簿係を務める男である。
依頼はこの取引の内容を調べる事と、マークされていたモーリスが持っているであろう裏帳簿やその他の証拠品の奪取であった。
話の内容から煩わしい依頼以外に何物でもなかったが高額な前金と成功報酬が約束された事、それにローサがやるときかなかった事で依頼を受ける事となり今回の事件へと繋がった。
※※※
食事を終えてひと息ついていると小屋の老人が急ぎ足で小屋に駆け寄りドアを開けて入ってきた。
老人「山の麓に騎士団らしき男たちをみかけた!あんたらだろう!逃げるなら道案内するが?」
老人は肩掛け鞄に食料と水袋を詰めながら言った。
アスル「追手が……仕方無いお爺さん色々と恩にきます」
アスルは痛い脇腹を押えながらローサに肩を借りて立ち上がった。
老人は騎士団が見えた方向と逆方向に歩き出し道無き道を進んだ、しかし道の無い山を進む事に老人は何の迷いもみせなかった。
ローサ「さすが狩人だね!」
アスルに肩を貸しながら老人を見失わない様に付いてゆく、負傷したアスルの歩調に合わせてゆっくりと移動していたが老人が長年の経験で培ったルートは山の素人には気づくことすら叶わなかったようだ。
どのくらい歩いたか定かでは無いが陽は大分傾きかけてきていた。
老人「此処までくればさっきの奴等には付いてこれまい、この先に地割れは有るが底が浅く渡りやすい場所が有る、渡った先の森を抜ければお前さん等の足でも2日もあれば宿場町に着けるだろう」
老人はその方角を指差しながら二人に説明した。
ローサ「お爺さんありがとね!」
アスル「助かりました」
ローサは屈託の無い笑顔で礼を言い、アスルは深々と頭を下げた。
爺さん「あんたらには昔の恩を返しただけじゃ!これも持って行け!」
昔ギルドの依頼でこの周辺の魔物出没状況を調べに来た事があった、その時に足を負傷して倒れていたこの老人をアスルとローサが発見し助けた事があったのだ。
老人はぶっきらぼうな口調で食料と水袋が入った鞄を突き出した。
アスルとローサは山の中に消えて行く老人が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
老人「やれやれどおしたものか……」
老人は二人への恩と王国民としての責務の間で悩んでいた。
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