逃亡

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 宿場町に到着したアスルとローサは代えの下着と必要な物を調達し宿屋で部屋を借りた。 アスル「取り敢えずひと息つけたね」  傷口を消毒し包帯を新しく変えたアスルがローサに話しかけた。 ローサ「手当も終わったし美味しいモノ食べに行こうよ!」  ここ数日乾いたパンとスープしか食べられなかったローサは宿屋の向いに有る酒場に行きたくて我慢ならない様子だった。 アスル「余り人目に付くのは避けたいけど……しょうが無いか……」 ローサ「やったね!行こうアスル!」  嬉しさの余りアスルに抱きつきキスをしようとするローサを制しながら一度言い出すと聞かないローサにため息をついてアスルは承諾した。 ※※※  酒場は沢山の客で溢れていた、それもそのはずで王都から宿場町まで四日、宿場町から隣街のガムダーラまで更に三日はかかる、その為王都とガムダーラを行き来する旅人や商人は必ずこの宿場町でひと息つくのだそうだ。 給仕の亜人女「注文はお決まりですか?」  アスルとローサのテーブルに注文を聞きに来たのは犬の亜人だった。  この世界は殆どが人族ではあるが人族以外の亜人種が総人口の2割ほど確認されている。  迫害を受けている訳では無いが少数種となればそれなりに差別的問題も表れる。  イリス王国でも数年前より亜人種への差別等の禁止を法に定めたところだが他国では根強く差別意識が残っていたり奴隷として扱う国も少なくはない。 ローサ「鶏揚!それとエール!」 アスル「私は……ステーキを血が滴る程の超レアで!それと私もエールで……」  ローサは酒好きでアスルは血が滴るほどの肉がすきだった。 ローサ「美味しぃ!やっぱ温かい肉じゃ無いと食べた気しないよね〜!!」  暫く待って料理がテーブルに並ぶとローサは夢中でがっつき始めた。  アスルは静かに半焼けのステーキに舌鼓を打ちながら周りの人達の噂話に耳を傾けている。 商人「ロックウェラ鉱山の復旧はかなり遅れるらしいな、石炭や鉄の価格が跳ね上がりそうだ」 旅人「鉱山が停止じゃあロックウェラの住人も大変だな」 冒険者「それも大変だが聞いたか?」 旅人「なんだ?まだ何かあるのか?」 冒険者「何でも長年採掘量が誤魔化されてたのが発覚して採掘管理を任されてた貴族が打首にでもなるんじゃないかって」 商人「それが事実なら陛下も大層ご立腹だろうな」 冒険者「まぁ下々の俺達には関係無い話しだけどな……」 アスル(採掘量詐称だけ?証拠品を渡しに王都に戻りたいけど王国騎士に追われてる……でも遅くなる事で依頼人の身に影響しても困る……でもでも……)  王都に行かない限りこれ以上の情報が聴けないのは明らかだった、しかしアスルはそのリスクと自身の状態を考えると王都へ強行する事に踏み切れないでいた。 ※※※  ロックウェラ事件から七日がたったこの日、王城の審議の間では一つの審判が下されようとしていた。  各々の報告を精査し各大臣と有力とされる貴族からの意見も考慮した査問委員会はロックウェラ鉱山の管理者であるデルソーレ・ウィンザー伯爵を国家反逆の罪で処刑とし伯爵家の取り潰しを決定した。 ロンデリオン(色々な意味で無能な連中だな……)  たった一人ロンデリオン公爵だけは判断を下すには証拠も不十分で早計すぎると反対したのだがその他の貴族の主張を抑えきれずウィンザー家を救う事は敵わなかった。 ※※※  
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