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出会い
時は三日ほど遡る、王都からの勅令を携えて使者がウィンザー伯爵邸へ訪れた。
邸内の一室には当主のデルソーレをはじめ妻のミレッタや愛娘サレンと従者達が皆涙ながらに当主への感謝と最後の別れを惜しんでいた。
デルソーレ「皆今まで尽くしてくれたこと心より感謝する……」
別れを終えた従者達は主一家の最後の夜の為に三人を残し退室していった。
デルソーレ「ミレッタ……不甲斐ない私を許して欲しい……」
妻のミレッタを強く抱きしめながらデルソーレは言った、ミレッタは言葉にならない言葉でデルソーレを抱きしめ返していた。
その傍らにはまだ十歳に満たないサレンが両の目に涙をためて佇んでいる。
デルソーレ「サレン……愛しいサレン……最後の夜だパパに沢山キスをしておくれ……」
デルソーレがサレンの顔の高さまで屈むとサレンは両手を大好きなお父様の首にまわし何度も何度もキスをした。
ミレッタ「貴方……私も一緒に逝きます……」
サレンのキスを受けるデルソーレの背中を抱きながらミレッタが言った。
デルソーレ「ミレッタ……良いかいミレッタ!そしてサレン!君達の事は義父上にお願いした、決して私の後を追おうとしてはいけない!どうか私の分まで幸せになっておくれ……それに……」
デルソーレは何かを言いかけたが辞めた。
最後の夜を家族三人で過ごしたデルソーレは次の朝には使者と共に王都へと旅立って行った。
その哀しい後ろ姿を視えなくなるまで見送ったミレッタとサレンは僅かな従者と共に実父であるトーマス男爵領に向うのだった。
ミレッタ一行がウィンザー領を出る手前で王都からの使者が待ち構えていた。
使者「ウィンザー伯爵夫人で間違いないか?!」
使者としては甚だ強い口調で言い放ってきた。
エリオット(従者)「伯爵夫人の御前である無礼は許されぬぞ!」
使者「王都執行部よりの指令である!ミレッタ夫人及び娘のサレンは先ずはロンデリオン公爵領に立寄り執行部より沙汰が有るまでロンデリオン公爵の保護の下待機されたし!以上である!」
エリオットの言葉に反応するでも無く眼の前に高く掲げられた指令書は確かに執行部からの物であった。
デルソーレを連行して行った使者とは別の使者とは何故?と少し不審に思うミレッタだったが
ミレッタ「致し方有りません、命令に従いましょう……少し寄り道になる程度です」
ロックウェラの事件以前は両家の間を行き来する程懇意にしてくれていた公爵である、悪いようにはならないはずとこの時のミレッタは思っていた。
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