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第四話:たった一人の下宿人
ーーー不当な金額の下宿と判断したら、リストをつくって掲出
先日の関東日日新聞の掲載と同じだ。
相場より圧倒的に高い生鮮食品や日用品の店を、電車広告に掲げる手法と何ら変わらないとひゐろは思った。
いずれにしても、高額なものについては悪評を広げていくやり方だ。
消費者にとってはありがたいのかもしれないが、高価なものが全て悪質なわけではないだろうにとひゐろは思った。
「参考に、本郷の下宿代の相場を調べたら、どうかしら?」
ひゐろは、民子に提案した。
「……でもそれは、どうやって調べたらいいの?一軒ずつまわって、下宿代を伺うわけにはいかないし」
「……」
ひゐろには、良い知恵が浮かばなかった。
「うちの下宿は、お義父さんがはじめたものだから、どうしても残しておきたいの。今ですら下宿人が少ないのに、評判を落としたくないわ」
民子は唇を噛んだ。
「そうよね。おじい様もお父様も、うちの下宿を大事にしているのを私も知っているから。何かいい方法を考えてみるわ。……とりあえず匡の靴下は、このまま編み続ければ大丈夫よね?お母様」
「同じ編み方を四段まで続けたら、一旦止めて。また教えるわ」
「わかったわ。四段を編み終えたら、また声をかけますね」
民子は、ひゐろの部屋を出て行った。
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