第四話:たった一人の下宿人

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お母様は専業主婦で、教員の妻だ。我が家は特別金持ちではないけれど、特に金に不自由はしていない。そんなお母様でも、悩みを抱えることがあるのねと思いつつ、ひゐろは黙々と匡の靴下を編み続けた。 「……ただいま!」 玄関から、三吉兄さんの声がした。 大学から帰ったのだろうと、ひゐろは思った。 何か(ひら)いたのか、ひゐろは自室から三吉を呼んだ。 「三吉兄さん!三吉兄さん!ちょっと部屋に来て」 大きな声で叫んだせいか、匡が驚いて泣きはじめた。 「よしよし、ごめんね」 ひゐろは匡を抱きながら、背中をポンポンと叩いた。 「……どうした、ひゐろ。ここを開けるぞ」 「ええ。どうぞ」 三吉はタマを抱えて、ひゐろの部屋に入ってきた。 「何の用だ?」 「お帰りなさい。三吉兄さんここに座って」 ひゐろは三吉に、座布団を差し出した。 「あのね、今政府が物価の値下げを要求しているでしょう?むやみに高価なものは、電車の広告に悪評を載せるような動きがあるのですって。下宿代も同様に高い価格だと、各所に悪評が掲示されるらしいの」 「……下宿が?うちの下宿も、その対象になるのか」 三吉は驚いて、タマの背中を撫でる手が止まった。
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