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お母様は専業主婦で、教員の妻だ。我が家は特別金持ちではないけれど、特に金に不自由はしていない。そんなお母様でも、悩みを抱えることがあるのねと思いつつ、ひゐろは黙々と匡の靴下を編み続けた。
「……ただいま!」
玄関から、三吉兄さんの声がした。
大学から帰ったのだろうと、ひゐろは思った。
何か閃いたのか、ひゐろは自室から三吉を呼んだ。
「三吉兄さん!三吉兄さん!ちょっと部屋に来て」
大きな声で叫んだせいか、匡が驚いて泣きはじめた。
「よしよし、ごめんね」
ひゐろは匡を抱きながら、背中をポンポンと叩いた。
「……どうした、ひゐろ。ここを開けるぞ」
「ええ。どうぞ」
三吉はタマを抱えて、ひゐろの部屋に入ってきた。
「何の用だ?」
「お帰りなさい。三吉兄さんここに座って」
ひゐろは三吉に、座布団を差し出した。
「あのね、今政府が物価の値下げを要求しているでしょう?むやみに高価なものは、電車の広告に悪評を載せるような動きがあるのですって。下宿代も同様に高い価格だと、各所に悪評が掲示されるらしいの」
「……下宿が?うちの下宿も、その対象になるのか」
三吉は驚いて、タマの背中を撫でる手が止まった。
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