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第五話:謎の人影
三吉の返答に、ますますたった一人の下宿人が気になった。
「……どんな方なの?」
「実は俺も、あまり会ったことがないんだ」
「一体、どういうこと?」
ひゐろは、さらにその下宿人に興味を持った。
「ほら、下宿人というのに、食事の時間にも居間に出てこないだろう?そのくらい姿を見せないのだよ」
「……なぜ現れないの?」
「わからないけど、結構外に出歩いているのじゃないか?それに年齢も、三十代らしいよ」
「……三十代の大学生!」
ひゐろは、意外な返答に驚いた。
「それに彼は、長い髭をたくわえているし」
「へぇ……」
ひゐろは想像もしなかった人物像に、言葉を失った。
「とりあえず、本郷の下宿代の相場については、俺から重蔵兄さんに伝えて調べてもらうよ」
「ありがとう。結果がわかったら、私にも教えてね」
三吉はタマを抱き上げて、ひゐろの部屋を出て行った。
―――たった一人の下宿人は、どんな人なのか。
ちょっとその姿を拝見したいなと思いながら、ひゐろは匡の靴下を編みはじめた。
一方、匡はひゐろがかけていたオルゴールの音に誘われて、眠ってしまったようだ。
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