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「あぁ。ここは先日、小菅刑務所になった。監獄に関する管制が改正されたことで、名称が変わったんだよ」
「そう。それでは小菅刑務所に、匡を連れて行きますね。お身体にはお気をつけて」
「しばらくは、ゆっくり過ごしてほしい。ひゐろ、今日は本当にありがとう」
ひゐろは再び人力車に乗り、匡とともに本郷の実家に戻った。
今日は人力車に乗っての移動だったが、ひゐろはひどく疲れてしまった。
一つは小菅刑務所までの往復が、二時間近くかかったこと。
もう一つは匡が人力車の中で泣き続け、あやし疲れてしまったからだ。
人力車の護謨車輪は比較的音はしないものの、時折大きく揺れる。
その揺れのたび起こされてしまうようで、匡は終始不機嫌だった。
本郷の実家に帰るとひゐろは匡を民子に預け、自室ですぐに横になった。
そのまま、うとうとと眠ってしまった。
夜中の二時頃のことだ。
みゃーおみゃーおと遠くから、猫の鳴き声がする。
その声に起こされて、ひゐろは目を覚ましてしまった。
“タマが外で鳴いているのだろう。あの声は、きっと発情期だ”
ーーーあぁ、タマも人肌が恋しいのか。
布団の中でタマの鳴き声を聞いているうちに、ひゐろの目に涙が伝う。
枕元にあるテーブルランプに手を伸ばし、小さな灯りをつけた。
すると、一冊の本が置いてあるのにひゐろは気がついた。
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