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そう思いながら、縁側にある物干し竿に布団を干しはじめた。
空は晴天だ。
布団を広げると、夫の香りがほのかに残っている。
いつ夫は、この家に帰ってくるのだろうか。
そしていつ私を抱いてくれるのだろうか、と空を見上げながらひゐろは思った。
すると突然、遠くから
「お姉さん!お姉さん!」
と呼ぶ声がする。
ひゐろは共同水道のほうに身体を向けると、そこには隆子が立っていた。
相変わらず襤褸を着ていたが、おかっぱの髪は艶やかに光っていた。
「……お姉さん、帰ってきたの?」
隆子は驚いた様子で、そうたずねた。
「ううん。布団を干すために、ちょっと寄っただけよ」
「そう。赤ちゃんは生まれたの?」
「ええ。かわいい男の子よ。今日はお姉さんの実家に預けているわ。せっかくだから、少し話をしましょう」
隆子は黙って、縁側に腰かけた。
「お母さんの身体の調子はどう?少し良くなった?」
すると隆子は唇を一文字に結び、ゆっくりと口を開いた。
「……母ちゃんは、亡くなりました」
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