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口数が少なく、照れ屋の重蔵兄さんだから、間違いない。
そこへ三つ釦の背広姿の重蔵兄さんがやってきた。
「……おはよう」
そう言ったきり、重蔵は手を合わせて箸を持った。
「重蔵兄さん、『女性読本』を買ってくれてありがとうございます」
すると重蔵はちらりとひゐろを見て、
「あぁ」
と言ってごはんをかき込んだ。
「……よし乃さんは元気?よろしく伝えてくださいね」
重蔵兄さんはうなずいたまま、食事を続けた。
そして十分もしないうちに食べ終わり、出勤した。
「……重蔵兄さんは、以前よりもつれない感じね」
ひゐろが残念そうに言うと、
「俺にもあんな感じさ。この不況で銀行の取引先の信用調査や、市場形成調査だろう?そりゃ、日常のことはうわの空だよ。それでもひゐろに雑誌を買ってくるのは、兄貴らしいと思うよ。ひゐろは家でゆっくりしなきゃならない時期だから、少しでも楽しいことをと思ってくれているのだよ」
三吉はそう言った後、ちゃぶ台で胡座を組んだ。
「先週の関東日日新聞には、確か大蔵大臣官邸で金解禁の審議が行われたと書いていたよ。もし解禁になったら、重蔵兄さんはさらに大変になってくるだろうな」
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