第二話:金解禁の審議と編み物

2/3
前へ
/34ページ
次へ
口数が少なく、照れ屋の重蔵兄さんだから、間違いない。 そこへ三つ(ぼたん)の背広姿の重蔵兄さんがやってきた。 「……おはよう」 そう言ったきり、重蔵は手を合わせて(はし)を持った。 「重蔵兄さん、『女性読本』を買ってくれてありがとうございます」 すると重蔵はちらりとひゐろを見て、 「あぁ」 と言ってごはんをかき込んだ。 「……よし乃さんは元気?よろしく伝えてくださいね」 重蔵兄さんはうなずいたまま、食事を続けた。 そして十分もしないうちに食べ終わり、出勤した。 「……重蔵兄さんは、以前よりもつれない感じね」 ひゐろが残念そうに言うと、 「俺にもあんな感じさ。この不況で銀行の取引先の信用調査や、市場形成調査だろう?そりゃ、日常のことはうわの空だよ。それでもひゐろに雑誌を買ってくるのは、兄貴らしいと思うよ。ひゐろは家でゆっくりしなきゃならない時期だから、少しでも楽しいことをと思ってくれているのだよ」 三吉はそう言った後、ちゃぶ台で胡座(あぐら)を組んだ。 「先週の関東日日新聞には、確か大蔵大臣官邸で金解禁の審議が行われたと書いていたよ。もし解禁になったら、重蔵兄さんはさらに大変になってくるだろうな」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加