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第三話:下宿経営の不安
「……お母様、いらっしゃる?ひゐろです。入っても構いませんか?」
「ひゐろ?どうぞ」
ひゐろは襖を開け、民子の部屋に入った。
「お母様、昨日は匡を見てくれてありがとう。おかげで昨日は、ゆっくりできました」
「それは、良かったわ。……あれ?匡は?」
「私の部屋でぐっすり眠っているわ。起こしたくなかったので、そのままにしているの。すぐにここをお暇するから、大丈夫よ」
ひゐろは座布団に座り、雑誌『女性読本』を開いて民子に見せた。
「お母様、こちらを見て。これから寒くなっていくから、編み物に挑戦しようかと考えているのよ。まずは、匡の靴下あたりから編んでみたいの」
「縫い物の次は、編み物ね」
民子は『女性読本』のページをめくりながら、微笑んでいた。
「……忙しいところ申し訳ないのだけど、教えてくれない?」
「はいはい。お安い御用よ。かぎ針編みで、簡単にできるわ」
民子は立ち上がり、部屋の押入れを開けた。
「……確かこのあたりに、毛糸の残りとかぎ針があるはず」
押入れの奥に入れた柳行李の中から、鉛色の毛糸とかぎ針を出した。
「毛糸は残りわずかだけど、匡の靴下なら十分でしょう」
「助かるわ!ありがとう。お母様!」
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