第三話:下宿経営の不安

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「家賃といえばね。うちの下宿も大変なの。孟さんが亡くなって部屋が空き、家賃が払えないという学生もここを出て行ったわ。それに加え、最近は学生消費同盟という団体もあって、下宿の値下げを要求しているのよ」 「……学生消費同盟?」 ひゐろは聞きなれない団体名を、民子に聞き返した。 「ええ。その団体が『高額な下宿代を要求し、その費用で女中の給料を賄っているところも多い』と言っているの」 「でもうちは、決して高額な下宿代じゃないでしょう?ここ五年ほど、一度も下宿代を上げていないじゃない」 「私たちは高いと思っていないけれど、学生さんにとってはどうなのかしらね。神田や早稲田に比べると、本郷は比較的下宿代は高いといわれているらしいわ」 民子は、不安な表情を見せながら続けた。 「しかも学生消費同盟が不当な金額の下宿と判断したら、リストをつくってそれを各所に掲示すると言っているの。今は一部屋を除いて空いているし、不安だわ」
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