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第一話:布蛙の居留民からの流行
「……本当に?本当に三人で暮らせるの?」
ひゐろは再び、涙を流しはじめた。
「もちろん、今すぐじゃないけれどね。年内には、釈放されると聞いている。それまで煉瓦づくりにも、精を出さなきゃな」
夫の英太郎は、終始笑顔だった。
「今作っている煉瓦は、山口県の建築物になるらしい。結構な人数で作業をしているよ」
「きっと大きな建造物なんでしょうね。釈放されるのは、心からうれしく思うわ」
「これも、真面目に刑務作業に取り組んだおかげかもしれない。いや、関係ないか」
夫の茶目っ気のある返答に、ひゐろも笑った。
どんなに辛い状況であっても、夫は状況を重くとらえないんだなと。
私も夫のようにありたいと、ひゐろは思った。
「また君と暮らせると思えば、力も湧いてくるよ」
「えぇ。私もあなたの帰りを待っているわ」
「……匡のやつ、寝ているぞ。初めて父親の顔を見たというのに」
それを聞いて、ひゐろはまた笑った。
二人が話をしている間に、匡はすやすやと眠っていたようだ。
「また、小菅監獄に面会にやってくるわ」
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