夕方の改札前にて

1/1
前へ
/1ページ
次へ

夕方の改札前にて

休日に外の予定を済ませ、今日一日を完遂し、充足感を感じていた頃であった。 電車の乗り換えのために、線路が複数交わる大きな駅の中を歩いていた。 時間は、午後5時で、駅には帰るであろう人々が歩き、それぞれの場所へと向かっていた。 改札の前に、20代中盤くらいの男女が立ち、話しているのを見かけた。 私がちらりと見たすぐ後、女性が男性に一声かけ、一歩引いて男性に向かって小さく胸の前で手を振り、振り返って改札内へと入って行った。 カップルなのか、付き合う前の男女なのか、友達なのか、わからないが、 男性は、女性に軽く手を振り返した後、その場を一歩も動かず、人込みへと消えていく女性の姿を見ていた。 女性は、一度も振り返らなかった。 男性のその姿に、寂しさを感じた。 現場を見て、自身の帰り道を歩きながら思った。 あれは、男性は好意を持っているが、女性は好意を持てなかった、恐らくもう会うことのないであろう、二人の別れ際だったのではないだろうか。 ここからはただの空想だが、 マッチングアプリなどで会うようになった二人で、数回目のデートを経て、男性側は好意を持っていったが、女性側はあまり持つことができなかった。 女性側は、男性のことを気遣い、好意を持てなかったことを悟らせずに少しずつ距離を取ろうという考えに至った。 しかし、男性側もそのことに薄々気づき、それでも諦めきれず、何かないかと考えていた。 私が見たのは、その考えを持った二人のデートの別れ際だったのかもしれない。 今思い出せば、二人の服装はどちらもデートを意識したものだったと思う。 まぁ、女性側の気合が本当に入っているのか、どうなのかは私にはわからないが、ワンピースを着ていたので、恐らくそうなのだと思っておく。 しかし、二人のワンシーンしか見ていないが、どちらも相手に対して、真剣だったのだろうと思うし、優しい人物なのだろうと思う。 その二人の別れ際でついた、気持ちの明暗を偶然にも見かけたのかもしれない。 ただ、振り返らない女性の後ろ姿を見る男性の姿は、どこか寂しげだったなと思った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加