押し入れのナイトメア

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押し入れのナイトメア

 これは、私が小学生の時にあったぞっとするような話。もうかれこれ三十年近く前になるだろうか。  小学校三年生の時のことだ。私のクラスには、マナコちゃんという名前の女の子がいた。いつもボサボサの髪の毛で、服は似たような服ばかりを着ていた覚えがある。ピンクのワンピースと、白いシャツにスカートの時と、灰色のシャツに青い半パンをローテーションで着ている――といったかんじ。  本人がそれらの服をお気に入りで着ているのだと最初は思っていた。でも私は彼女が白いシャツを着ている時は、あんまり近寄りたくないなと思っていたのが本心である。というのも彼女のシャツにはケチャップでもついてしまったのか胸元に目立つ沁みがあって、それがいつまでも落ちる気配がなかったからだ。ようは、なんだかちょっと汚いな、と感じたのである。  とはいえ、親には昔から“人を見た目で判断してはいけません”と口が酸っぱくなるほど言われて育ってきたクチだ。  それに、見た目はともかくマナコちゃんはいつも明るくて元気いっぱいだし、人にも親切な女の子だった。運動神経はそんなに良くないけれど勉強はできたし、たくさん友たちもいたように思う。 「ねえ、本貸して貰っていい?何か面白いのない?」  彼女に本を貸すことは少なくなかった。私はいつもいいよ、と持っている児童書やライトノベルや漫画を彼女に貸していたのである。それを嫌だと思うことはなかった。というのも、マナコちゃんは本を貸すと一日か二日でそれを読み切って、すぐに私に返してくれたからだ。  そして、とても記憶力が良かった。その本の内容について完全に覚えてきて、私と一緒に雑談に興じてくれたのである。私が彼女に本を貸すのも、彼女と大好きな物語の話題で盛り上がれるから、というのが大きい。 「実は、カトリーナはルインのことあんまり好きじゃなかったんじゃないかしら」  彼女は小学三年生にしては、大人の女の人のような喋り方をする子だった。お母さんの真似だという。まあ、一人称は本人の名前なわけだが(マナコ、というのがどういう漢字を書いたのかは忘れたが、大好きなお母さんがつけてくれた大好きな名前なんだとは言っていた)。 「だから、ドラゴンの腹が弱点だって、すぐに教えてくれなかったのよ。マナコはそう思ってるわ」 「忘れてたって、言ってなかったっけ?」 「でも、カトリーナはおじいさんのところでドラゴンの研究の弟子をしていたのよ。最近山にグリーンドラゴンが出るってこと、前々から聞いてたはずでしょ。だったら、普通弱点についても、戦う前に調べておくと思うの。それなのに、なんで戦いが終わるまで思い出さなかったのかっていったら、本当は覚えてたのにイジワルでルインに教えなかったと思うのよね」 「あーあー……確かに、カトリーナならやりそう……」 「最後に、おじいさんに叱られて大泣きしてるシーンあったでしょ?あれ、なんで叱られたのか本には書いてなかったけど、その件だったんじゃないかとマナコは思うわけ」 「あーあーあーあー!そっか、そういうことか!全然わかんなかった!マナコちゃんすごいね!」  私が褒めると、彼女は欠けた前歯を見せてにんまりと笑うのだった。  私達は一番の親友というほどではなかったけれど、でもクラスではかなり仲良しな方だったのではなかろうか。
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