セカイハラスメント

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 僕はセカイからハラスメントを受けている。このから。前世で人を山ほど不幸にした(カルマ)でなければ説明がつかないくらいだ。 「フーーーッ……」  簡潔に僕の自己紹介をさせて頂く。中学時代から鬱的状態に。自閉症傾向が強い。自殺未遂経験3回。5年を越えた薬物中毒者。父親は大学に入る直前に離婚して消えた。  大学卒業後、グループホームで13時間拘束されていたら数ヶ月で気が狂いほぼニート状態に。その後数ヶ月前に初めて恋人ができて、後先など考えずに駆け落ちの様な同棲生活をアパートでして2ヶ月ほど経った。僕は23歳、彼女は19歳である。 「生きていること自体が罪である」  という自覚を酷くさせられる。僕は、いや、は純粋な幸福を嗜む事を許されない。普通を手に入れる事がどれだけ難しいか。道端で幸せそうな家族を見ると腹が立つくらい、僕はひねくれた。  普通であれば今ほど人生で幸せな瞬間は無い。彼女の方から僕のSNSの投稿やくだらない作品に興味を持ってくれて、実際に会ってから数ヶ月で付き合った。というより付き合うと同時に同棲を始めたと言っても過言ではない。  引越しの手続き・初めての関係に事柄の進みが速すぎて、現実感がたまに無くなる。彼女がどうなのかは知らない。  僕という人間は本当に自己破産した父親にそっくりで、アパートを借りる初期費用を母親に負担して貰った。それ以前にもグループホームで働いていたのに、月の支払いが超えてしまって毎月そこそこの額を貰っていた。家具まで少し買って貰った。 「もし母親が僕に(ほどこ)しているのが投資だったら」  なんて考え始めたら怖くてしょうがない。学費から今まで何百万、いや何千万、いや、価値の付けられない恩がどれほどあっただろう?自分が親だったらこんな息子、薬に溺れている所に気づいた時点で捨てる。  挙句今月の家賃を払えずにまた貰っているのだから、正直母親と顔を合わせる場面を想像すると怖気付いてしまう。  同棲が始まってから1ヶ月くらいで、彼女はコンビニバイトの面接に受かって夜勤をメインにすることが決まった。僕は金を産めないのに無駄遣いを止められず、それと比べたら小銭にしかならないような派遣をするだけ。「おめでとう」と心から素直に祝えない。  19歳の子が一生懸命節約し、身を削っているのに僕はなんだ?ちなみに彼女もかなりの発達障害傾向と自律神経失調症、躁鬱に解離性同一性障害がある。そして僕ほどでは無いが薬に頼る人生ではある。僕より辛いはずだ。辛さを比べるのはナンセンスかもしれないけれど、シンプルに4つ歳上がこのザマは情けなさすぎる。  今日は彼女と薬と酒に溺れた後、ほぼ24時間寝ていた。その間彼女は数時間で起きては寝れずを繰り返して軽くパニックになっていた。誰かが居ないと寝れない様なので数十分一緒に布団に入り、彼女が寝た事を確認してカラオケに向かった。  アパートにはまだWiFi回線を用意できていなく、通信制限だった為、数曲歌った後にカラオケ付属のフリーWiFiでゲームをしていた。その後はゲームセンターでドラム風の音楽ゲームをやって、メダルゲームのパチンコで多少勝った。ストレス発散になるかと思い向かったのだが、なんだか虚しいだけだった。  朝に家を出て帰る頃には夕方だった。帰宅すると彼女は安らかに眠っていた。ため息をつく。 (何個のサービスの後払いが、来月の生活費と家賃が……)  常に頭に残っている。数日前に財布を無くして身分証明できる物が1つもない。その上住所変更をまだ行っていない。皆口を揃えて金の話をするが、その通り世の中金だった。僕は文学部を選んだが、想像せずともそんな学は額が付きにくい。 「創作は馬鹿らしい。いい加減変な固執は辞めろよ」  頭の中で片方の僕が言う。 「違う。金じゃ価値の数値化が明確にできない、数少ない美しい物なんだ」 「不明瞭な物に手を出す奴は馬鹿だ。クスリもギャンブルも、創作も、お前が好むものは頭が悪くて反吐が出る」  ああ、僕は僕に厳しいな。実は冷たいのは世界では無く、自分自身なのか?自傷癖が割かしあるし、自らズルズルと引き下がっているのか?  ……精神安定剤を飲むとしよう。  ただ安定した当たり前の生活が用意されていると子どもの頃はマイナス的に思っていた。悪い意味で正解の結果が、今ここにある。  僕はいつしか追い詰められて苦しんでいるのか、苦しみたくて追い詰められるようにしているのか、分からなくなっている。薬で身体は痩せ穢れ、他人から否定的な目で見られていると思考するのが常識になり、まるで月に吠える痩せこけた野良犬みたいだ。  どうしようもない理由で普通のレールから外れてしまった僕達は、嗤われても死ねずにただ泣くことしか出来ない。グループホームで様々な障害を持つ入居者を、心の底から救いたいと思う労働者は僕だけだった。 「それは全部抱えたらみんな貴方みたいに自分がどうしようも無くなるから、自分の中で見切りを付けてるだけだと思うよ。その価値観は素晴らしいけれど、そうしている人達を悪く思ったりするのは違うんじゃないかなって、私はね」  少し前にふと当時の入居者のことを思い出して泣いてしまった時、彼女がそんなようなことを言っていた。  それが「普通」だなんてやってられないと思わないかい?僕が過敏過ぎるだけで、人間はそういう心持ちで生きていくべきものなのかい? 「貴方は感受性がありすぎる」  同じ時にそうも言われた。そうか、僕は良いことも悪いことも深く捉え過ぎてしまうから表情も無くして、自分の檻に閉じこもって来たんだ。  でもそれじゃあ何も出来ない上に何も感じられないから、代替品みたく音楽、ゲーム、小説、映画、アニメ、漫画といったに縋ってなんとか人間の形を保っている風に繕ってきた。  だからこそそれらを造る側になりたくて小説を書いたり曲を作ったりしたけれど、才能が無くてどれも駄作だった。それでも彼女の言う通り、そこでも見切りを付けられなかった。結果的な総資産は「どうでもいい知識ばかり広く浅く持っている中途半端で人並以下のおかしな人間」だ。  これを世界のせいにするのは間違いな可能性もある。かもしれない。  これは僕が望んで作り出した現実?僕は普通になりたいのか?金が欲しいのか?彼女を幸せにしたいのか?何をしたらこの長い地獄に見切りを付けられるんだ? 「もう無理ッ!アンタキチガイだよ!親の立場でも救えない!関わらないで!」  母親がそう叫ぶ妄想を何度もしてきた。 「ホント口だけのクズで何も出来ないよね。良い所無いね。バイバイ」 彼女がそう告げて次の男の場所へ出て行く妄想を何度もしてきた。  口先だけの善人より、行動する偽善者の方がセカイは機嫌が良くなる。未完ばかりの小説を貯めている画面が僕の全てを物語っている。  思えば僕は良くあるを受けたことはほぼ無かった。虐められたことも、明確な嫌がらせをされた事も人より少ないと記憶している。  この世には色々なハラスメント、嫌がらせをされて苦しんできたり、たった今も苦しんでいる人が居るだろう。その人等にはノンデリカシーな気持ちかもしれないが、ハラスメントされた相手が「自分又は世界」の場合、対処はどうすればいいのだろうか?  憎むべき他人が居ることさえ羨ましく見えてしまう僕は、やはり生きるべき人間ではないだなと再三思い知る。自分を憎んでも、その処罰は自分に来る。世界を憎んでも、できうる反抗など無くてーーーー気が狂うんだ、本当に。  こんな不幸自慢を世に放つ僕も何かのハラスメントをしている事に当るのかな。時には最低で不謹慎な思惑を持ったりはすれど、困っている人が目の前に居たら助けたいし、皆幸せであればそれに超した事は無いと根っこの部分では思っている、はずだ。  ともかく何にハラスメントされていようが、自分を1番大切して欲しいと、被害者の人達には伝えたい。僕達みたいな人間を内心嘲笑って見下してその心を保てるのならそれでいいとすら思う。そうすればこんな救えない僕達にだって、誰かの役には立てていると少しばかり救われる。  僕は知らぬが、僕以外の全人類は毎日を頑張って生きて何かを追いかけている。素晴らしいことだ。大事な心を切り売りしてまで我慢しても僕みたいになるだけだ。過度な忍耐から得られる対価はほとんど無い。  明日自体があればいいんだ。自分にもそう言い聞かせている。世界及び全人類を嫌うことと同じように、僕はこんな世界をなにより嫌悪しながらも結局愛している。  明日は晴れだといいなぁ。
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