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触れない発言をしてから彼は本当に乳首にだけは絶対に触れようとしなかった。今迄抱き締めてから、えっちの流れになる事が多かったのだが....
「今日は....少しやめとこうか」
「また次にしよう」
「.....」
気を遣っているのか、彼は暫く僕を頑なに抱こうとしなかった。乳首の痒みはだいぶ落ち着き、今は絆創膏無しの生活を送れている。胸が彼の手に触れて貰えない生活が一月程経とうとした時、ようやく僕の遅めのヒートが来た。
「....晴也。その....」
フェロモンの匂いで察したのだろう。
寝室で寝る準備をしていた彼の服の袖をくいっと引っ張る。ハッとした彼は、僕を愛おしそうに撫でながら「今日はしようか」と優しく続ける。
ベッドにそっと寝かせてくれた彼は、腕を広げた状態の僕からするすると寝巻きのボタンを取っていく。口付けを交わしながら手際よく少しずつ脱がしていくが、やはり乳首には触れようとしない。腰辺りを上から下にスローに撫でた後、露わになった僕のお腹にキスしながら下へ、下へと口でなぞっていく。
「......」
この、もどかしさは何なんだろう。
直接触れられてないのに、目先の乳首は主張をやめない。
軽く張ったピンク色のソレに気付いた晴也は、一瞬触れそうになりながらも何とか視線を逸らす。その瞬間僕の中の何かがプツッと切れて、思わず「晴也のばか!」と彼の首元を両手で掴み、グイッと引き寄せていた。
「確かに僕は私生活に支障をきたすくらい乳首の事で悩んでたよ。ただ....全く触らないでなんて言ってない」
「!」
ただ、あの時は彼に絆創膏を貼った乳首の様子を知られて揶揄われるかもしれないって思っただけ。
こいつに触られるのは嫌じゃない。
触られるのを期待しているみたいに思われても、もうそれでいい。
僕はこいつが、晴也の触れる手が好きだ。
晴也の事が大好きだ。
「晴也。....早く触って」
彼の大きな手を握り、ゆっくりと自分の胸の上迄持っていく。僕の胸に手を這わせた彼は、一瞬だけ息を呑む音を鳴らした後、恐る恐る僕の乳首に顔を近付けていった。
「──ん...」
目が覚めると、いつの間にか朝になっていた。ゆっくりと身体を起こし、不意にパジャマが乳首を擦れて「っ」と反応する。あれから一週間──彼に沢山乳首を弄られ、胸に触れられた。
沢山触れられてやっぱり痒くなったけれど、....触れて貰えない事の方がなんだか切なく感じて辛かった。これは僕自身の問題だから、どうやらこの悩みとはこれからも向き合っていくしかなさそうだ。
「はぁ.....もう諦めて大人しく軟膏塗って対策していくか」
ベッドから身体を下ろし、ゆっくりと立ち鏡の前に向かっていき、ふとある事に気が付く。「ん?」と不思議に思い鏡に近付き確認すると、身体中に大量のキスマークが。首にも幾つか付けられ、隠せない状態な程のマーキングだ。
「は、は、....!晴也のばか!!!」
既に大学へ向かい居ない彼に向かって精一杯の怒りの言葉をその場で吐く。ヒート明けの翌日──僕は首に包帯を巻き付けて大学へ向かう羽目になった。勿論こっぴどく叱った。
彼といるといちいち悩みが尽きない。
でも、嫌じゃない。
我ながら幸せで贅沢な、僕の些細な悩みである。
fin.
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