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prologue
『番が...成立していますね』
医者の気まずそうな言葉、あの時の表情は未だに脳裏にこびりついている。
真っ白な部屋の中、医者と向かい合う形で座っていた自分はただ呆然と黙りこくっていた。
隣に座る青年をチラリと見据える。
顔に殴られた跡のある彼は僕と同じ様に狼狽える事なく静かに医者の話を聞いていた。恐らく親に怒られて手を出されたのだろう。
膝上で握り締める拳に力を込める様子が窺え、気まずくて思わず顔を逸らす。
『どうしますか。結構金額も高くなってしまいますが、手術で番解消する事が可能です』
(手術....)
現代の医療技術は急速に進化を遂げて、今や高い金額とはいえど番の解消が可能な手術がある。発情が来たら自動的に抑制剤が注入されるΩ専用のフェロモン抑制剤の開発など、以前よりΩにとって過ごしやすい現状になってきている。
(何百万も掛かるし....僕は別にそんな大事にしなくてもいいと思ってるけど)
『責任を取ってこれからは山内さんの側で山内さんの為に生きます』
思考を遮る様に隣の彼が勢いよく僕に向かって頭を下げてきた。彼の言葉の重みに、微睡んでいた意識が少しずつ覚め始める。
僕の為に僕の側で生きる...
『....本気?』
無意識に彼に声を掛けてしまっていた。
今迄一回も話した事がない彼の言葉の重みに驚き、そこまでしなくてもいいのに、という思いと、逆にあんたはいいのかという思いで複雑な気持ちになる。ようやく目が合った彼は真剣な面持ちで僕を見つめて言う。
『俺は一度決めた約束は破らない。最低最悪な事をしたんだ。最後迄絶対に幸せにする。山内が....どうしても嫌なら解消...します』
最後の方は自信なさげになった彼。
背後で両親が『無理に受け入れなくていいのよ』と小声で耳打ちしてくる。僕は被害者だし彼の提案を呑む必要はないけど、あいにく恋愛や運命などに興味はない。だからこの時の僕は面倒で『いいよ』と安易に返した。
『番、解消しなくていいよ。僕の番はあんたのままでいい』
本当に、ただただどうでもよかった。
こんな風に適当に人生を決めてしまうくらいに。
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