時給、104円

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「ねえ『赤ん坊は泣くのが仕事』と、最初に言ったのは誰だろうね。 その人を見つけ出して一時間ほど抱きしめたい」 私が言うと武史(たけし)が、夫としてではなく人間として言ってきた。 「一時間も経たないうちに通報されると思う」と。 このクールでマイペースな彼は、立派なパパとして全世界に誇れる。 今日の買い物にも付き合ってくれて、生後半年の娘を抱っこしてる。 休日くらい家で留守番しててもいいのに「荷物持ちするよ」なんて 言ってくれたのだ。 結果的に、荷物は私が持ち、娘の愛花(あいか)を抱いてるわけだが。 肉体労働系の仕事をして疲れてるのに、ごめんね、ありがとう。 そうして帰りのバスに乗り込んだ。 ベビーカーを置く位置も立つ位置も、かなり悩んでしまう公共の場だ。 しかも愛花が半泣きで、ベビーカーから出して武史があやしてるわけで。 「ほいほいほいっ」とか言いながら腕の中で揺らしている。 頼む、泣かないで、泣くのが仕事ってさ、誰でも思ってるわけじゃない。 なんだかんだで迷惑になってしまうのよ。 申し訳ないんですよ。 その大きな祈りよりも大きな泣き声が響き始めた。 やーめーてーくれーっ!
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