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「国が導入したって、本当だったんだ......?」
武史が呆然とした顔で男性をみつめている。
「え?なに?あ、あの、ありがとうございます。
わざわざ、それから、すごい!この子、泣きだすと止まらないのに」
男性が不敵な笑みを見せてサラサラの前髪を弾ませた。
「A級は、ここから先もあるんですよ」
そう言った男性は小声で歌を歌い始めた。
ささやくような歌詞が聞き取れないような不可思議な声だった。
「え、うそ......」
泣き止んで真顔になっていた愛花が、眠り始めた。
「効き目は大したことないです、そっと揺らすと起きますよ。
泣くのも眠るのも、下手にコントロールしちゃいけないので」
もはや男性が神か何かにみえてくる。
そこで武史が「これはね」と、説明してきた。
「公共の場で泣きだす赤ちゃんを、泣き止ませるバイトが始まったんだ。
子供は泣くのが仕事、とはいえ保護者は困惑してしまう。
そこで研修を受けたバイトの誰かが、変顔と歌で眠らせる。
時給は104円、自動的に現場状況が感知されて口座に振り込まれる。
国が定めたシステムだよ」
そんなの知らなかった!現場状況が感知されるって、どうやって?
子育てが忙しくて、SNSとかも見る暇なかった。
みんなは知ってるの?というか......。
「高度な技術なのに、時給、安い!」
「10でテン、4でシ、天使って意味。
赤ちゃんを『天使の寝顔』にするまでが仕事だから」
なるほど、そういうことか。
いや、もっと金、もらえよっ!
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