タダ酒飲みたくて見知らぬ学校の同窓会に潜入した話。(リメイク作品)

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 万年金欠の売れないお笑い芸人、嶋田にとってそれは悪魔の囁きだった。 「3年C組同窓会の又吉様ですか? お待ちしておりました、すでに他の皆様はお揃いですよ」  思えば今日は散々な一日だった。劇場では観客の失笑という望まぬ笑いを買い、先輩芸人からはこっ酷く批評され。  帰りの道中、溜まった鬱憤に任せて石を蹴飛ばせば黒塗り高級車のボンネットに直撃、慌てて逃げる羽目になり、かなりむしゃくしゃしていた。  嶋田は思った。もちろん自分は元3年C組でもなければ又吉様とやらでもないが、なぜかそう勘違いされている。  だったらそのまま又吉(そいつ)に成りすまして同窓会に参加すれば、タダ酒を飲めるんじゃなかろうか、と。  妙な自信もあった。ここ数年ですっかり痩せこけた自身がそうであるように、同窓会で久しぶりに会ったら見た目が別人の如く変わってたなんてのはよくある話だし、会話でボロを出さないようにすれば大丈夫だ。好きなだけ飲み食いして、ニセモノだとバレる前にバックれてしまえばいい。  しかも珍しいことに今同窓会は席指定があるようで、店員から自分(又吉)含めた参加者全員の名前入りの座席表を渡された。これがあれば他の参加者の名前が把握できるし、話も合わせやすい。  よし、いけるぞ! これはきっと日々頑張っている俺への、神様からのプレゼントだ!  ……と、疲れた嶋田の頭は状況をなんとも都合良く解釈し、足はひとりでに案内係の店員の背中を追っていた。 「こちらです。どうぞ」  辿り着いたのは店内最奥、この小さな店のどこにこんなスペースが隠れていたのかと驚くほどに広い和室席だった。座席表の配布にも協力してくれていたり、ただの居酒屋に見えて意外とハイレベルな店なのかもしれない。もしかしたら、芸能人御用達だったりして。  靴を脱ぎ座敷に上がると、ワイワイと楽しそうに話していた見知らぬたちの注目が一斉に集まる。  嶋田は緊張でわずかに震える息を吐き出す。大丈夫、一度溶け込んでしまえばバレることなどない。  そして溶け込むためには何より滑り出しが肝心だ。堂々と、当たり前のように挨拶しろ。どこにでもいるありふれた普通の同級生を演じるんだ。  嶋田は満面の笑顔を作り、鼠蹊部にスッと両手を添え、言った。 「よっ、皆! お久しブーメランパンツ!」  瞬間、座敷は水を打ったようにしんと静まり返った。
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