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プロローグ
「やり直したいんだ、琴」
彼は少しだけ、泣きそうな顔をしていた。
差していた紺色の傘がふわりと宙を舞う。
冷たい雨粒が容赦なく身に降り注ぎ、視界がどんどん悪くなっていく。
「次は、間違えないから」
軽く肩を押されてバランスを崩した体は、簡単に後方へ傾いだ。自分の意思とは関係なしに、頭上を振り仰ぐ。
薄暗く淀んで濁った空だった。
この世界はキラキラしていて、尊く、煌びやかなものなのだと教えてもらった。そんな綺麗な空を、せめて最後くらいは見たかったのに。
そうか。今度こそ、死ぬかもしれない。
けれどこうなったのは、仕方ないのかもしれない。
縋るように伸ばした手は、誰にも掴まれることはない。
もし自分が、この世界にまた戻ることがあるとしたら────
もう一度、彼に会わせてもらえるだろうか。
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