大人になって分かる気持ち

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大人になって分かる気持ち

 小学生、中学生、高校生、大学生⋯⋯少しずつステップアップしていく大人への階段。その度に私は、口癖の様にこう言っていた。 「早く大人になって、自立したい!」  お母さんは何処か物寂しげに「そう⋯⋯あっという間だから頑張ってね」と応援してくれた。 ☆  私が自立したいと思い始めたのには、ちゃんと理由がある。学生は勉強が本業と言われ、テストを受けて実力を図る。そしてまた、テストに向けて勉強をする⋯⋯つまりは永遠ループなのだ。  そんな世界から抜け出したくて、気がつけば自立、自立と口々に言っていた。けれど今思えば、中学三年生の頃から時の流れはあっという間だった気がする。  受験生になり、進路を深く考える様になっていき、勉強への向き合い方も変化していった。そしてついに、受験を受けて合格する事が出来た。  高校生になれた私は、片想いの相手──暁音と付き合う事になったのだ。それからは幸せいっぱいで嬉しかった。卒業後も、和気藹々とマンネリになること無く楽しい日々を過ごした。  暁音は弁護士に、私は看護師になりたくて大学へと通った。それからは、互いに勉強が忙しくて会う時間が作れずにいたけれど、二人とも資格を取ってからは、デートをしたりお泊まり会を沢山したりもした。  そして彼と付き合い初めて、七年の月日が流れたある日のクリスマス。私は、イルミネーションを見に暁音と穴場スポットへ行った。  手を繋ぎながら、思い出話に花を咲かせていた。そして、最終地点に着いた時。暁音は真剣味を帯びた瞳で、「ね、舞花」と私の名前を呼んだ。 「どうかしたのー?」  そう聞くと彼は「話したい事があるから聞いて欲しい」といい、一呼吸置いた。そして、 「俺、舞花とこの七年付き合えて良かったと思ってる⋯⋯そして、これからも一緒に居たい。」 「うん⋯⋯」 「だから、俺と結婚をしてくれませんか⋯⋯?」  跪いてポケットから箱を取り出して、中身を顕にした。そこには、ルビーの着いた指輪があった。 別れ話かと思い覚悟を決めていた私は、予想外の展開に目を見張った。そして、こんな私なんかを好きでいてくれる彼の事を更に好きになった。勿論、返事はこの一択しかない。 「はいっ!不束者ですがよろしくお願いします!」  そう言ってぎゅっと拳を握りしめる。すると、何か暖かい温もりが私を包み込んだ。しばらくの間頭が真っ白になっていたけれど、ようやく暁音が私を抱き寄せられていた事に気が付いた。 ☆  それから一年半、私達の間には第一子の女の子を授かっていた。かけがえのない宝物を抱きしめる時の愛おしさは、こんなにも暖かいんだとこの時初めて知った。  そして、子供を育てる事の大変さも身を持って体験した。お母さんがあの時に、俯きがちだった理由がよく分かった。  自分にとって大切な存在が、独り立ちをしてしまう事は喜ばしい⋯⋯でも同時に、親離れされてしまうという親心ながらの悲しさもあるのだということも知った。  育てるって、こんなにも奥が深いなんて思ってもいなかった。お母さんの様に、優しくて頼ってもいいと思える⋯⋯子供にとって、そんな存在でありたい。 ──いつになっても君を育てていきたい⋯⋯。
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