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でてくる、でてくる。
小学生四年生の時は、なかなか“当たり”のクラスだったと思う。
現在大学生になった私が振り返るに、あそこまでたくさん友達ができたクラスは前にも後にもなかったような気がするのだ。
ただ一つだけ心残りがあるとすれば、ある女の子を助けられなかったことである。今日は彼女、ここみちゃん、の話をしようと思う。
クラスの雰囲気とも言うべきか、私達はほぼ毎日のように数人一緒にどこかの家にお邪魔して、遊ぶということを繰り返していたのだった。よその家に何度も頻繁にお邪魔したら迷惑になるとか、そういう認識がなかったのが大きい。子供なんてそんなものと言えばそんなものかもしれない。
私達のクラスは、というか当時は今ほど受験でピリピリしている子供が少なかった頃だ。今だったら中学受験のため、塾に毎日のように通わされている子も少なくない事だろう。しかし、少なくとも私達のクラスで、私立中学を受験するため勉強している子はクラスに二人くらいしかおらず、少なくとも私達の仲間には一人もいなかったのである。
特に仲良しだった六人くらいでクラブ活動やスイミングスクールがない日はいつものように集まって遊んでいたのだった。
そのうちの一人が、ここみちゃん、という女の子だったのである。
彼女が住んでいたアパートには、一週間に一度くらいお邪魔していた。よく叱られなかったものだと思うが、それは多分彼女がシングルマザーの家で、母親が仕事で帰りが遅くなることが多かったというのが大きいのだろう。ようは、友達が家に遊びに来るくらいのことは許容せざるをえなかった、のだろうと思われる。
彼女の家はけして広くなかったが、それでも仏壇のようなものがあって、お父さんらしき人の写真が飾ってあったのだった。いつも家に来ると、私達はまず仏壇の前に座って手を合わせるのが常だったのである。
「ここみちゃんのお父さんって、どんな人だったの?」
「すっごく優しい人だったよう」
ここみちゃんは、お父さんについて尋ねるといつもニコニコと答えてくれる。
「ここみが幼稚園の時に死んじゃったけど、ここみをたくさん遊園地とかに連れていってくれて。映画とか、動物園とかもいっぱい行ったの。ママの方がずっとお仕事だったから、お父さんが家でせんぎょうしゅふ?っていうのをするって決めてたんだって。だから、ここみはずっと、パパに育てて貰ってたのよ」
「へえ」
まだ二十代くらいの、なかなかイケメンなお父さんが写真の中で微笑んでいる。ここみちゃんは嘘をつくのが苦手な子だったから、きっと彼女の言葉は一から十まで本当なのだろう。
「ここみは、パパが大好きだった。……ずっと一緒にいてほしかったのに、なんで死んじゃったのかな。帰ってきてほしいな」
死んだ人が帰ってくることがあると、彼女は何故かそう信じているらしい。手を合わせる時も頻繁に“早く帰ってきてほしい”ということを繰り返す少女だった。
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