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「サイラスさん?」
「俺もな、自分の父親の記憶が無いんだ。俺が生まれて間もなく蒸発してしまったと母からは聞いている。…俺も、もし父親が住んでいる場所を知ったらお前と同じ行動を取るだろうな。」
サイラスは再び車を走らせた。
「いいだろう。シンジのところまで連れていってやる。」
「…でもサイラスさん、仕事は?」
雫が問い掛けた。
「シンジは我々警察も恐れる相手だった。その真実が知れるなら我々にも大きなことだ。」
サイラスはミラー越しにフッと笑った。
「ありがとうございます。サイラスさん、日本のお菓子は好きですか?」
「日本の菓子?」
恐神はスティック羊羹をサイラスに渡した。サイラスは運転しながらチラリと羊羹を見て、初めて見たのか首を傾げた。
7時間後、スタッフォードの街に入ると、サイラスは路肩に車を止めた。
「…着いたぞ。今日は何処かホテルに宿泊した方がいいな。」
「それなら問題ないよん!ミリアお姉ちゃんが既に押さえてくれてます!3人分ね!」
雫が身を乗り出しながら言った。
「…流石ミリアですね。情報と動きが早い。」
「ミリアってのは誰なんだ。ていうか、俺もいいのか?」
「勿論よ!そこの先のホテル!」
雫がミリアからのメールを元に案内したホテルは、この地域でナンバー3に入る高級ホテルだった。
「マジか!ここに泊まれるのか?」
サイラスは興奮気味でホテルに向かった。
その日の夜、恐神はサイラスに誘われてホテルの最上階にあるバーにやってきた。
「日本では乾杯って言うんだろ?乾杯!」
2人はカクテルで乾杯した。
「本当に日本語がお上手ですね。」
「俺は日本が好きなんだ。雫と蓮生のこともな!」
「それは嬉しいですね。」
「…お前の父親のシンジには、色々な噂があってな。正直どれが真実なのかは誰も分からないんだよ。」
「…ギャングのボスもその1つですか。」
「そういうことだ。…蓮生、お前は真実を受け入れる覚悟はあるのか?真実というのはな、大半が残酷なことだ。」
「…なかなかグサッときますね。でも、覚悟は決めてあります。私には元々父親の記憶…いや、数年前以前の記憶が全く無いのでね。」
恐神の言葉を聞いたサイラスはグラスを持ったまま、恐神の顔をじっと見つめた。
「…サイラスさん?」
「あ、いや…何でもない。」
サイラスは何かを考えながらマティーニを飲み干した。
その頃、雫は部屋でミリアと電話をしていた。
「…お姉ちゃん、それほんとなの?」
"そうよん。恐神神治は国から追い出されたのよ。何やら国家機密に関わっていた人物なんだけど、国家を裏切ろうとしたのか何なのか。"
「…じゃあ元々は凄い人なんだ。恐神さんのお父さんって。」
"…これは信憑性が乏しいんだけどさ、その国家機密ってのが、人体実験らしいのよね。恐神神治は科学者って話よ。"
「何よ、その人体実験って。ワードだけで恐ろしいんだけど。…恐神さんにはこの情報は?」
"駄目よ。信憑性の無い情報はクライアントには渡せない。今の蓮ちゃんはクライアントだもの。…あ、ナギから電話だわ。いい?無茶はしちゃ駄目よ!"
「分かってるわよ。」
"じゃ!"
ミリアは電話を切った。
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