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数時間後、2人がベッドに横になると雫はベッドライト以外の明かりを消した。
「まだ約束の人とアポ取れてないみたい。だから明日も観光かな。」
「それはそれで楽しみですね。」
「…そう。」
雫は仰向けでスマホをいじっていた。
「あの、神掛さん。」
「…雫でいいわよ。年下だし。」
「…では、雫さん。」
「フフ、"さん"もいらないとこだけど、あなたには無理そうね。何?」
「あなたのことを聞いてもよろしいですか?ミリアとの関係とか、ご家族のこととか。」
恐神は天井を見つめながら質問をした。雫はスマホをベッドに置くと少し間を開けてから語り始めた。
「…私もね、恐神さんやミリアお姉ちゃんと同じ施設の出身。両親は私が3歳の時に強盗に殺されて、施設に入ってすぐ、私は今の親に引き取られたの。とても良い人。私が7歳の時に仕事の関係でロンドンに来て、そっからずっとこっち。ミリアお姉ちゃんとは10歳の頃にロンドンで出会ったのよ。お姉ちゃんは仕事って言ってたかな。」
「…今のミリアの仕事のことは?」
「勿論知ってる。違法的なことをやってることも。でも、私はお姉ちゃんの力にはなりたいの。」
「…そうですか。実は私は昔の記憶がないんです。今、雫さんが言っていた施設出身というのもミリアに教えてもらったもので、自分の記憶は全く…。」
「恐神さんとミリアお姉ちゃんの出会いって…あれ?」
微かな寝息が聞こえた雫が恐神の方を見ると、恐神は静かに夢の中に旅立っていた。
「フフ、お疲れのようね、殺人鬼探偵さんは。」
雫は全ての明かりを消して自分も眠りについた。
翌日も朝食を済ませるとホテルを出て、雫がオススメする名所に恐神を案内した。日本人でも知っている有名どころは勿論、地元の人しか知らない美しい景色が拝めるスポットなど、雫は疲れた様子も見せずに恐神を楽しませた。
その翌日、またその翌日も少し離れた街まで車を飛ばし恐神にイギリス国内を案内し続けた。
4日目の朝、2人はホテルのレストランで朝食を取っていた。
「恐神さん、今日はですね、ここから更に20キロ程…」
「まだですか?」
恐神はヨークマートにハチミツをたっぷり注ぎながら問い掛けた。
「…ハチミツ掛けすぎ。」
「私は甘いものが大好物なので。」
「え?ミリアお姉ちゃんそんな情報少しもくれなかった。むしろ、甘いもの苦手だと勝手に思い込んでた…あれ?ちょっと待てよ。」
雫はこの3日間の恐神を思い返すと、あらゆる場面でポケットから何かを取り出して口に入れていたのを思い出した。
「あの、ポケットからいつも出して食べてるのって。」
「これですか?」
恐神はポケットからスティック羊羹を取り出して雫に渡した。
「よ、羊羹。ほんとに甘いもの好きなんだ。」
「日本から大量に持ち込ませていただいてます。このハチミツヨーグルトも中々ですが、やはり日本の甘味の方が私には合ってます。それよりも、私のさっきの質問にお答えくまださい。」
「…まだアポが取れないみたいなの。ミリアお姉ちゃんからの連絡待ち。」
「そうですか。ちなみに雫さんは、その人物のことをご存知で?」
恐神は不敵な笑みを浮かべた。
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