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「あなたが捜してる人は、とんでもない存在の人ってことよ。多分、ミリアお姉ちゃんの交渉が失敗したのね。あなたの捜し人は、あなたに会うことを拒んでいるの。」
「…しかし、私が捜しているのは…」
「It looked like he'd run away from this area.(この辺りに逃げ込んだように見えたが。)」
倉庫の向こう側から、男の声がし2人は息を殺した。
「If you disobey orders from the boss, they will kill us.(ボスからの命令に背いたら、俺たちが殺されるぞ。)」
「Hey, what about that warehouse?(おい、あの倉庫はどうだ?)」
2人組の男たちの足音が恐神たちのいる倉庫にゆっくりと近付いてきた。男の1人が倉庫の引き戸に触れた。
恐神と雫は口に手を開け、息を止めた。
ガタン。
「No. You're locked.(駄目だ。鍵が掛かってるな。)」
「Time is running out. We're going that way!(時間が無い。あっちに行くぞ!)」
男たちの足音は遠ざかっていったのを聞き、恐神と雫は緊張の糸を解いた。
「はぁ…、雫さん流石ですね。」
恐神は、倉庫の扉に箒が咬ませてあるのを見ながら言った。
「危なかったぁ。」
「しかし、何故あの男たちは私を狙っているんですか?彼らがボスと言っていた人物は誰です?」
「…恐神さん、あなた自分が誰を捜しているのかほんとに分かってないのね。」
「…私が捜しているのは自分の父親ですよ。私は自分の両親について、全く記憶に無いんです。…私の記憶のスタートは何も無い無機質な部屋でした。そこにはボストンバッグが置かれていて、鞄にはメモがあり、『この鞄を持ってここから出ていきなさい。』と。鞄には大金や服などが詰められていたんですが、その鞄の内ポケットにこの古びた写真があったんです。」
恐神は背広の内ポケットからその写真を取り出し、雫に見せた。
「…随分古い写真ね。」
それは皺くちゃで色褪せていた。写真は何処かの公園で男児と大人の男性が並んでいる写真だった。
「この小さい男の子が恐神さんで、隣の人がお父さん?」
「記憶には無いんですけどね。ミリアにはこの男性をずっと捜して貰ってたのです。ミリアからは、この男性は私の父親で、名を神治ということがわかりまして。私は自分の昔の記憶が全く無いことが恐ろしくて、この人に会えば何かが蘇るのではないかと淡い期待を寄せてましてね。」
「ふぅん。それでミリアお姉ちゃんが居場所を見つけたのがこのロンドンだったってわけね。」
「はい。私はてっきりスムーズに会えるものかと思ってましたが…。」
恐神が寂しい表情をすると、雫が恐神の背中をポンと叩いた。
「ほら、こんなとこに閉じこもっててもしょうがないし、とりあえず行きましょ!」
2人は周囲を警戒しながら倉庫を出発した。
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