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見た目は日本人の50〜60代に見えるその男は恐神の顔を見てフッと笑った。
「…あのぅ。」
思いも寄らない男の行動に恐神と雫は戸惑いの表情を見せた。
「あんた、恐神神治の息子の蓮生か?」
「…はい。」
すると、男は少し間を置き、突如笑い出した。
「ガハハハ、ほんとにここに来やがったか。」
男は笑いながら恐神の肩を叩いた。
「あ、悪いな、驚かせちまって。俺は朝倉っていうんだ。訳あって、ギャングのアジトにいるわけだが、残念ながらあんたの父さんはここには居ねぇよ。」
「…さっき私たちはそのギャングの連中に命を狙われました。私の父はギャングのボスなんですよね?」
恐神の言葉を朝倉は鼻で笑った。
「あのよぉ、日本人がこのロンドンの地を生業にしているギャングのボスなんて務まるわけねぇだろ。それはギャング側が勝手に流してるデマだ。日本人の俺たちを凶悪者に仕立てあげて、自分たちは上手く身を隠している。…ほんとなら、こんな風にアジトから抜け出すことも自由にはできねぇんだ。だが、俺は神治からあんたがこのアジトに来た際の頼まれごとをされててな。これを渡してくれとよ。」
朝倉からはポケットから一通の封筒を取り出し、恐神に手渡した。
「じゃあ確かに渡したからな。」
朝倉は急いでアジトに戻ろうとしたが、恐神が「あの!」と呼び止め、朝倉は足を止めて振り向いた。
「あなたや父は悪者では無いんですね?」
「…あぁ、父さんを信じてやってくれ。あと命だけは落とすなよ。ギャングの連中はお前と神治を会わせたくはないらしい。」
朝倉はそう言うと、恐神の返答を待たずにアジトへと帰っていった。
「…恐神さん、一旦サイラスさんの車に戻ろうよ。」
「えぇ。」
2人はサイラスの車に戻って乗り込むと、サイラスはすぐに発車させた。
「どうだったんだ?シンジには会えたのか?」
サイラスはバックミラーをチラッと見ながら問い掛けた。
「…いえ。」
「そうか。これからどうするんだ?今日はどっかのホテルを予約してるのか?」
すると、恐神はさっき朝倉から受け取った封筒から取り出した紙をサイラスに差し出した。サイラスは運転しながらその紙を受け取った。
「地図の場所に行けますか?」
「…ここはスタッフォード!?ここから300キロ以上はあると思うぞ。何か観光目当てなのか?」
「…そこに恐神神治がいます。」
サイラスは急ブレーキを踏んで急停止した。恐神と雫は前に座席に見事に激突し、同時に額を撫でた。
「あ、危ないじゃない!!」
幸い後続車は居なかったため、事故には至らなかった。サイラスはそんなことよりも、後ろに振り返り、額を撫でている恐神の顔をじっと見つめた。
「…恐神。やはり、お前はシンジと関係があるんだな。」
「はい。恐神神治は私の父です。」
「父親だと!?」
「しかし、私は記憶が無く、私自身確かめたいのです。それから、先ほどのアジトで日本人に会いました。彼は父が悪い人間ではないことを教えてくれ、更に今父はその地図の場所にいると教えてくれました。」
「…つまり、お前はシンジが自分の父親かどうかを確かめたいってことか?」
サイラスの問い掛けに恐神は頷いた。
すると、サイラスはフッと笑った。
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