営業2課坂崎課長の怪しげな行動 PART2

5/5
前へ
/23ページ
次へ
俺の胸が、なぜかキュと絞られた。 (そこまでのファンだったんだ……俺、意地悪だったか?) もちろんコースターをクリップで挟んだのは、何を隠そう、この俺。もちろんわざとやったのだから、あんなガクブルな小山田さんの姿を見ると、少しだけ罪悪感。 俺はカバンから一冊のノートを取り出した。 (『冷たい態度も時にはスパイス』……は失敗……と) 書き記す。 (だけど、こんななまやさしい行動では全然ダメだ。もっと強烈なフックを喰らわせてやらなきゃ) まだ小山田さんは震えている。生まれたての仔鹿のようだ。今度は探し当てたボールペンのペン先を出したりしまったりカチカチカチカチ……(永遠に続いてゆく) まさしく放心状態を絵に描いたような。顔もぽけーってなっている。 (ははっ、そんなに落ち込むなんてな! こーんな奴のどこがいいんだか) 引き出しを開けた。ちびキャラアニメにされた、ファイブレのレンジを睨みつける。 そして、その目で小山田さんを見る。 (徹底的にやってやるからな、覚悟しろよ) ふん、と鼻を鳴らして、引き出しをバシンと閉めた。 * (睨まれてるう……めっちゃ睨んでくるう) 私の席から、坂崎課長の席は一直線。鋭い視線にいったん気がつくと、それは痛いくらいに刺さる。こんな視線、そらさざるを得なーい。 何でそんなに怒ってるん? そんなにコースター欲しかったん? つか、だったら領収書なんかに間違えて添付してくんなや! ってか、どうやったら添付資料間違えるんだよっっっ。 腹立たしい。実に腹立たしい。 一瞬喜んじゃったじゃん。ファイブレのレンジくん!? ウェハースに続いてまさかの奇跡の出逢い、神さまありがとうっっつ! やったーーー!!ってね。 ぬか喜びさせやがって。 もうなんこれ坂崎課長の悪さと言ったらない。くっそーーー。あ、もう4時45分だ。ショックが大きすぎて、時間が光陰矢の如し。あーあ。やけ酒でもしたい気分。酩酊したい気分。 ただ、退勤する前に確認しておかねばならぬことがある。相手が相手だけに、気が重い。 だが、推しのためだと言うならば、私は闘いたい。 今夜TV放送の、『それファイブレとやりましょう』を観戦するために、5時にはさっさと帰りたいので、一戦交える覚悟を決め、私は席を立った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加