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「悪いけど返してくれる?」
私が持っていたコースターに手を伸ばし、ピッと引く。レンジくんのコースターは、そのまま坂崎課長の手によって、スーツのポケットに仕舞われてしまった。
「ごめんね、これ集めてるから」
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そして課長は男子トイレへと消えていった。
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集めてる?
どいうこと?
ってか、穢れのない純粋無垢なレンジくんをトイレなんかに持ってく?(←自分的にはかなり有り得ない行為)
……やややいやいや、今はそこじゃない。
(もしかしてもしかすると……課長もファイブレのファンだったりする?)
……ないな。
ただ。
(あんな風にもぎ取っていかんでもいいのに……)
感じ悪。
私はレンジくんを手に入れられなかった悲しみとともに、課長の行動に心底落胆しつつ、なで肩をさらに落として席へと戻った。
*
(……嘘だろ)
俺の課長席より見渡すことのできる、この営業のオフィス。
ただ、俺の視線はさっきから、事務の小山田さんの姿に釘付けになってしまっている。
ここから見る小山田さんは、黒縁眼鏡をカタカタ小刻みに揺らしながら、身体をふるふると震えさせている。
(まさか俺がΦブレインのコースターを渡さなかったから……なのか?)
トイレから戻り、自席に着く。そしてポケットの中のコースターを取り出して引き出しに入れると、自然と小山田さんの姿が目に入った。
(やば小山田さん、手もめっちゃふるってる)
手がボールペンを求めて、空をうろうろと彷徨っている。だが、無意味だ。小山田さん愛用のボールペンは今、制服の胸ポケットにインしている。
(まるで小動物だな、おいおい大丈夫かよ……)
そんなにこのコースターが欲しかったのか?
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