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第一話 サキュバス童貞を食う (5・完)
朝7時半、カーテンの隙間から朝日が差し込み、ピピピという目覚まし時計の電子音にリカルドが体を起こす。
朝4時くらいまで抱き合っていたので実質3時間ほどしか眠れなかったが、下半身はやけにすっきりしていた。
結局あの後、正面座位で一回、バックで一回、正常位で一回と体位を変えながら三回もしてしまったので当然と言えば当然だ。
一晩ですごい体験をしてしまった。
裸のまま寝るのも、隣に誰かの体温を感じながら寝るのも全部が初めてで、なんだか照れ臭い。
横を見ると、昨夜散々リカルドを翻弄していたエロの化身ような悪魔は、すやすやと満足げに天使のような顔をして寝てた。
やっぱ、夢じゃなかったんだな。
リカルドは昨夜起きたことを思い出し信じれない気持ちになる。
まさか自分が悪魔とえっちして童貞を卒業することになるとは……エロマンガみたいな展開だ。
ノクスに手取足取り教えてもらいながらするセックスははっきりいってめちゃくちゃ良かった。動画を見てやる自慰とは違い、相手の体温や反応は思った以上に自分を高ぶらせた。
抱きしめ返してくれる暖かい腕や、見つめ返してくる快楽に溶けた潤んだ目、自分を煽う淫靡な言葉。セックスって体を使ったコミュニケーションなんだなあとリカルドはしみじみと思った。
「昨日はあんなにドスケベだったのに、こうやって寝てると結構可愛いな……」
安らかに眠る悪魔の金色のサラサラとした髪の手触りを楽しみながらぼんやりと思ったところで、リカルドはハッとする。
いやいやいや!こんな顔してるけどこいつは悪魔だ、このままだと精力を吸われ続けてやり殺されるかもしれない。一刻も早くお帰りいただかないと!
あまりに気持ちよさそうに寝ているので、リカルドは少し罪悪感を感じつつ、優しくノクスを揺り起こす。
「おい、そろそろ仕事に行かないといけないから起きてくれ」
「……ん、もう朝か……」
体を起こし大きく伸びをするノクスは朝日を受け、金髪がキラキラと輝き昨夜の妖艶さは一切なく、神聖なまでに美しい。
リカルドはそんなノクスに少し見とれながらも、ここははっきり言わないと、と気を引き締める。
「もう腹いっぱいになっただろう。早く帰ってくれ」
「……そうだな。なかなか悪くなかったぞ」
ノクスはあくびをしながらベッドから降りると、その手をリカルドに向かってかざす。
「では、昨夜の事は夢だと思って忘れるがいい」
それが昨夜言っていた記憶を消す魔法かと気づいてリカルドが慌ててかざされた手を掴む。
「ちょっと待ってくれ。その……まさか初めての相手が悪魔だとは思わなかったけど、できれば初めての相手を忘れたくない」
少し顔を赤くして言うリカルドに、理解できないといった感じでノクスが眉を顰める。
「……何を言っている?私は悪魔だぞ。おかしな人間だな。覚えられいるとこちらは都合が悪い。昨夜の事は綺麗に忘れて、好きな人間とでも改めて本当の初体験をするんだな」
ノクスがリカルドの手を振りほどこうと腕を振るので離さないというようにリカルドはその手に力を入れる。
「……おい、痛いぞ」
「あ、わりい」
ノクスがわずかに顔をゆがませると、リカルドが慌てて手の力を抜く。
「俺絶対他の奴に言わねえし。つうか言ったところで絶対信じてもらえないだろ。その……サキュバスとヤったとか……」
「ふん、私は少しのリスクも残さない完璧主義なのだ。お前の感傷に付き合ってやる義理はない」
「ちょ、だから待てって!」
掴んだ反対の手をかざそうとするノクスを止めようとリカルドがベッドから降りる。
その時、カシャンと足元でガラスが割れたような音がする。
なんだ?と二人が同時に足元を見る。
「あ」「あ」
二人の声がそろう。
リカルドが足を上げるとそこには10センチほどの真鍮の鍵が落ちており、真ん中に入っていたであろう、紫のような緑の様な不思議な色をした宝石が粉々に割れていた。
「ああ~~!!」
ノクスが今までにない大声を出す
今までどんな時も余裕しゃくしゃくだったノクスの取り乱す様にリカルドも目を丸くする。
「どうしてくれるんだ!これは魔界へのゲートを開けるための鍵!この宝石がないと魔界に帰れないではないか!」
絶望感に頭を抱えるノクスに、さすがにリカルドも申し訳なくなって頭を下げる。
「マジか…いや、ホントにゴメン!ええと、接着剤とかで直んねえかな?」
「直るか馬鹿!この宝石にはゲートを開くための魔法が込められていたのだ。割れてしまっては魔法が解けてしまっている。これでは帰れない」
「ええと、他に帰る方法はないのか?」
深呼吸して少し冷静さを取り戻したノクスが頭を上げる。
「……あるとしたら方法は二つ。今人間界にいる同胞を探して一緒に連れて帰ってもらうか、もしくは帰ってこない私を魔界から誰かが迎えに来るのを待つしかない…。しかし私には心配するような家族や友人はいない。こうなったら自力で同胞を探すしかないな…」
「え、お前友達いねえの?」
つるっと口が滑ったリカルドが慌てて口をふさぐが、ノクスの鋭い目がギロリとリカルドを睨みつける。
「うるさい!私レベルになると下等なものとは付き合わんのだ」
「じゃあ、その同胞?が見つかるまで、俺んちに住んでていいからさ」
「当たり前だ!貴様が鍵を壊したのだからな!私の世話をするのは当然だ!」
そう怒鳴りつけると、ノクスは頭痛がするように頭を押さえて、はあと大きなため息をつく。
「なんでよりによってこんな狭くて犬小屋のような所で、こんな美的センスのかけらもないダサいやつと暮らさねばならんのだ……絶望だ……」
「悪かったな、狭くてダサくて!」
頭を抱えブツブツというノクスに、リカルドはちょっと早まったかな?と早くも後悔し始めた。
そして大事なことに気が付く。
「あ、そういや、俺、名前名乗ってなかったな。俺たち名前も知らずにヤッてたんだな……。俺はリカルド。リカルド・ノアだ。これからしばらくの間よろしく」
そう言ってノクスに大きな手を差し出す。
しばらくその手を見つめていたノクスは、はあと観念したように大きくため息をつくと、不機嫌そうな顔でその手を握る。
「……サキュバスのノクスだ。ここにいる間、貴様の精力をすべて吸い取ってやるから覚悟しておけ」
こうして三十路でDTだったリカルドは無事童貞を卒業し、サキュバス(♂)との同棲をスタートしたのだった。
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