天使の忠告を聞きませんでした

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天使の忠告を聞きませんでした

 天使の加護がありますように。そんな両親の願いが込められて俺に付けられた名前は天哉(あまや)。別段その名前が嫌いという訳ではない。ただ両親の願いが届き過ぎたのか、俺の側には常に天使がいる。見えるのも俺だけ。この天使、口煩いことこの上ない。 「また菓子パン買う気でしょ? 栄養のこともあるんだから惣菜パンにしなよ?」  天使は俺に囁くが迷うことなく菓子パンを手に取る。 「高校生も成長期なんだから……。甘いの好きなの分かるけどさ……」 「だから朝はサラダがっつり食ったろ?」 「日々の食事はねぇ」  こいつのせいで教室じゃ昼食も取れない。人の前ではあんまり相手にしないようにしているが、イラッとしたら人前でも口答えしそうでなるべくシカトを心掛けている。 「大体ミーシャ、俺ばっかり構ってていいのかよ? 天使の仕事ってそんなお気楽なのかよ?」  中庭のベンチで菓子パンを齧りつつミーシャに文句を垂れる。こいつの名前がミーシャなのは、いつ覚えたかも分からない。昔を思い出しても一番古い記憶にすでにミーシャはいたから。 「僕にとっては天哉のことが最優先なんだよ。大体天使にノルマなんてあると思うが君がおめでたい。天使は自由なものなんだよ」  ため息つきつつ、兄弟みたいなミーシャを追い払うこともできない俺も大概だけどさ。 「また一人でブツブツ言ってる……」 「どうせ変人だからね」  昼休みに一人になっても幼馴染みの亮子だけは俺を見つけて隣に座る。 「天哉、亮子とはあんまり仲良くするな……」  ミーシャはそう言うが幼馴染みを避ける訳ないだろうよ。 「亮子も変人扱いされるぞ?」 「とっくにされてる」  ミーシャによると亮子は裏があるから親密になるなと言う。知ったこっちゃない。大体寄ってくるのは亮子のほうだ。 「ところでさ、天哉はいつも誰と話しているの?」 「独り言だよ」  ミーシャと話していると言っても信用する訳がない。なのでいつも通りに濁してみる。 「本当に? 統合失調症ってやつじゃないの? 病院行ったほうが良くない?」 「そんなんじゃないから大丈夫。ただの独り言だよ」  亮子はまじまじと俺の顔を眺めて悲しそうな顔をする。 「天哉は、いつも一人じゃん……」 「一人が好きなだけだよ」  菓子パンを全部頬張って立ち上がる。 「どこ行くの?」 「昼寝しに。亮子はみんなのとこ戻れよ」  俺は昼寝場所の図書室に向かう。そこも俺にとっては定番の場所。騒がしいのは好きではない。
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