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「天哉、亮子と仲良くしてるが、あいつはお前のことを絶対病気だって悪口言ってんだぞ?」
「知ってる。ミーシャは人間に期待し過ぎだよ。誰だって裏表ある。何かしらのあら探しは誰だってやるだろ? 何なら今、ミーシャがしてたろ?」
「そうだけど、天哉は悪いやつじゃない。それだけで側にいる価値はある」
「だったら亮子だって悪いやつじゃない。ミーシャはどうして亮子を嫌がるんだ?」
「僕は天使だ。人には見えないことも見える。亮子は天哉のためにならない」
「天使の都合かよ。お節介のつもりでも、それはお節介じゃないよ。何でも思い通りになんていく訳ないだろ?」
「そんなのよく知ってるわ。天哉は僕の言うことを一つも聞いてくれない。そのせいで危険なことに何度もあってるのに……」
「思い通りにならないのに、なんで俺の側にいるんだよ」
「……なんでだろうなぁ」
「ミーシャも分かんないのかよ。図書室ついたから静かにしてくれ。貴重な睡眠時間を削るなよ」
独り言をブツブツ言ってる変なやつ。それが俺に付けられたレッテル。別に構わない。ミーシャに悪気はないのは、よく知っている。天使の話なんて誰にもできないし。
こんな風に俺の毎日は連続している。不満なんかないし。ただ両親は流石に友達のいない俺を心配している。友達と呼んでいいのは亮子だけだし。亮子からしたら友達かどうかは分からないが。ただ義務感だけで、俺を矯正したいだけなのかも。
「天哉、今日は学校休め。胸騒ぎがする」
「イヤだね」
十二月の冬休みも近いある日の朝、ミーシャはそんな忠告をしてきた。俺は即座に否定する。ミーシャの顔を見てみると渋い顔をしている。ミーシャが背中の羽根をパタつかせる。
「死ぬかも知れないぞ?」
「ミーシャがいつも正しいのは知ってる。でも無理だね」
ミーシャの忠告を聞いたことはない。聞く必要がないと思った事件は昔にあった。だからこそ俺は忠告を聞かない。
コートを身を包んで寒風吹きすさぶ町を歩く。今年は例年より寒い。いつも通りの道を歩く。
ふと前を見ると亮子が俺に向けて手を振っていた。俺の目は丸くなる。
亮子の真後ろにトラックが迫っていたから。
考えるより身体が動いた。全速力で駆けて、亮子の身体を突き飛ばす。
突き飛ばしたあとはトラックが俺に迫る。
「だから休めって言ったじゃん!」
ミーシャの叫ぶ声が聞こえた。だが俺は目を閉じなかった。絶対助かる。そう信じていたから。
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