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ある土地に、奇妙な小道が存在する。
夕暮れ時……すなわち逢魔ヶ時にその小道を通った者は、何の前触れもなく突然怪我をする。その怪我の箇所や度合いは、人によって様々だ。手や足を擦り剥く程度の軽傷で済む者もいれば、肋骨を骨折するなど重傷を負う者もいる。
それを知る土地の人々は、その小道を『怪我通り』と呼び恐れている。彼らは決して、夕方には『怪我通り』には近寄らない。
ある日の逢魔ヶ時。
何も知らない流れ者の男が『怪我通り』に踏み入った。
すると突如、男の額の真ん中に、小さな真円の穴が空いた。
直径9㍉のその穴は、38口径の拳銃の弾痕である。
その弾痕の穴は、男の前頭骨と脳を貫通し、後頭骨へと突き抜けた。
実は男は、38口径の拳銃で人を撃ち殺し、殺人容疑で指名手配中の逃亡犯だった。
その射殺事件の被害者は、額の真ん中を撃ち抜かれて殺害された。
たった今、見えない銃弾に頭部を穿たれた、犯人の男と同じ様に。
『怪我通り』は、過去に自分が誰かに負わせた、最も深い傷が、自分に返る場所なのだ。
かくして、報いを受けた男は、小道に倒れて死んだ。
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