一章

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 血が通っているのか不安になるほどに白い腕を、秀一は覗き込む。  肘の内側、一部の皮膚が赤く爛れていた。火傷のような、蕁麻疹のような、美しい肌には似つかわしくない、痛ましい傷だ。 「何か心当たりは……」 「さて。起きたらこうだったものでな」 「そう、ですか……」 「治してもらえるか?」  無作法な問いかけだ。まだ一目見ただけでは分からない。そう跳ねのけられてもおかしくない質問に、しかし秀一の答えは決まっている。 「ご安心ください」  秀一は顔を上げて、もう数えきれないほど口にしたその台詞を、機械のように吐き出した。 「当診療所の塗り薬で、あっという間に元通り。傷一つない肌に戻れますよ」    村では見かけない、随分と身なりの良い患者だった。  糸のほつれひとつない着物に、合わせられた詰襟のシャツと足元のブーツが、違和感なく洋を取り入れている。  都々はほとんど洋装を見たことが無い。父は白衣に合わせシャツにスラックスという出で立ちだが、母も含めて村人たちはみな和装だ。
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