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「ん……? うわ、汚ぇな。お前には一生かかっても手に入れられない靴だぞ、分かってるのか」
ようやっと都々の状態に気が付いた秀一が、吐しゃ物で汚れた靴の先を嫌そうに見遣り、都々の頬に汚れを擦りつける。
つんと鼻腔を刺激した酸っぱい臭いにまた吐き気が込み上げて、べしゃりと透明な液を吐いた都々に、父は嫌悪の目で吐き捨てた。
「興が醒めた。お前、自分で片しておけよ」
足音が遠ざかる。蔵から秀一が出ていき、束の間の平穏が訪れた。
指は一本も動かせそうにない。寒さで悴んで、全身が凍り付いてしまったみたいだ。
都々は先ほどから落ちかけている瞼を必死に持ち上げようとして、けれどふと、もういいのか、と力を抜いた。
だって、無理に生きる必要なんてない。都々はそれを望んでいない。必死に明日を生きて、それで何になるというのだ。死こそ幸福。死こそ安寧。死だけが都々を救う、たった一つの方法であると――都々にはもう、分かっていた。
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