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一章
一日はいつも、暗くて冷たい蔵の中から始まった。
といっても少女に朝の到来は分からない。陽の光が一切入ることの無い蔵では、時間の経過が測れないからだ。
唯一存在していた窓は、まだ少女が全てを諦めていなかった頃、脱走を試みたのが露見して二度と開かないよう改装を施されてしまった。
夢か現か、ぼんやり霞む意識の外で、なにやら重たい物が動かされる音がする。
地面に頬をつけたまま焦点の合わない瞳で扉を眺めていると、普段は閂で閉じられている両開きの扉が、少女にゆっくりと地獄の始まりを告げた。
「チッ、まだ寝てるのか」
扉を開けた使用人を外に待たせ、ずかずかと蔵に入って来る不機嫌そうな白衣姿の男。
男は少女の前で足を止めると、少女の太腿を革靴の先で思い切り蹴り飛ばした。
「……っ、」
「起きろ。仕事だ」
痛みに顔を歪める少女を虫けらでも見るような視線で突き刺して、男は踵を返した。
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