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「それは大変だ。ですがご安心ください。当診療所の塗り薬で、あっという間に元通り、傷一つない肌に戻れますよ」
「本当ですか……!」
「ええ、早速治療室へご案内いたしましょう」
よかったなあ。きっと息子に声を掛けているのだろう、心の底から安堵した声がして、都々は視線だけを動かした。そろそろ、自分の番だ。
都々が思ったのと同時、部屋の扉が開けられる。土埃で汚れた、つぎ当てだらけの着物姿の父子。怪我をしたという息子の細腕は、肘から手首にかけて、深く赤い線が走っていた。
部屋の隅に立つ都々を、息子の方がちらりと見た。恐らく初めての治療なのだろう。診療に慣れれば慣れるほど、村人は皆、都々の存在を気にしなくなっていく。まるで、治療室に置いてある道具の一つを見るように。
「ご子息はこの寝台へ。お父さんは、心配とは思いますが、治療室の外でお待ちいただけますか?」
「え、ええ、でも、あの」
患者の父親が、少し戸惑ったように視線を彷徨わせる。秀一はそんな男性を、にこりと有無を言わせない笑みで説き伏せた。
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